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クライスラー販売終了は影響するか?
日本におけるアメ車のこれからを考える

2018.02.23 デイリーコラム 桃田 健史

ユーザーにはなびかない

FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)ジャパンは2018年2月上旬、クライスラー車の国内販売を終了すると同時に、ジープブランドの新事業計画を発表。ジープ専売店の拡充を目指すと宣言した。

すでに2017年からジープの販売強化は行われており、その結果、2017年の国内累計登録台数は前年比7.6%アップ。初めて1万台の大台にのった。クライスラーの扱いはなくなるとはいえ、日本でも確実に売れているアメ車はあるのだ。

日本でのアメリカ車については、これまで米政府がTPP(環太平洋パートナシップ協定)の非関税障壁の対象として、日米2国間交渉におけるやり玉にあげており、TPP離脱を表明したトランプ政権も日米貿易の不均衡の象徴と考えていると、しばしば報じられている。たしかにアメリカ国内で販売される日本車の数と比較すれば、数百分の1と少ないが、現実的に、ジープのように人気のアメ車は存在する。

では、どうしてジープだけが好調なのか。

それは、“アメ車らしさ”を求める日本のユーザーにとって、ジープの商品戦略が心地良いからだと筆者は考える。FCAは決して、ジープを日本市場にマッチさせるような商品企画を行っていない。FCAが追求しているのは、あくまでもジープらしさの追求である。つまり、そうしたモノづくりやマーケティング戦略に対して共感を持っている日本人がいるということだ。

元来デトロイトスリーは、海外のユーザーに媚(こ)びを売るようなまねはしない。なぜならば、アメ車はアメリカ国内需要向けが本筋であり、常にアメリカンベストを目指した商品だからだ。

輸出は、アメリカンカルチャーに憧れる一部の人たちのための、特別枠という考え方だった。2000年の中盤以降、中国市場の台頭でGMが中国市場を意識した商品を一部投入しているが、GMは北米市場と中国市場をうまく使い分けた商品戦略を展開していることも事実だ。

それに最近は、アメ車がさらにアメ車らしく“メイドインUSA精神”を貫く傾向が強まっている。2018年1月上旬に開催された、北米国際自動車ショー(通称デトロイトモーターショー)では、イレーン・チャオ運輸長官の基調講演を直接聞いたが、自動車メーカー各社がアメリカ国内の生産拠点を拡大する姿勢を示していることについて称賛していた。FCAがメキシコ工場をたたんでミシガン州に新工場を設立することに対してもだ。

日本市場で近年知られたクライスラー車といえば「300」だろう。写真は2016年に発売された、限定車「300Sアロイエディション」。
日本市場で近年知られたクライスラー車といえば「300」だろう。写真は2016年に発売された、限定車「300Sアロイエディション」。拡大
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“アメ車らしさ”が大事な要素

こうした時代の流れを受けて、FCAはラムトラックやジープなど、アメ車らしさを前面に押し出す商品の、さらなる強化を進めている。繰り返すが、アメ車のメーカーはユーザーに媚びを売ることはしない。あくまでも、メイドインUSAにこだわったアメ車らしさを追求することに専念しているのだ。

これを一般的には、保護主義と呼ぶ。とはいえ、デトロイトスリーおよび米政府のアメ車に対する保護主義の姿勢は、アメ車の魅力をスポイルしていない。反対に、アメ車の魅力をさらに引き出しているように思える。

では、ジープを含めたアメ車は、日本ではどうなっていくのか? 筆者は、日本でのアメ車の販売はさらに伸びると考えている。その背景には、若い世代を中心とした「クルマに対する考え方の大きな変化」がある。

いわゆる“若者のクルマ離れ”とは、クルマに対して所有することよりも利用することを主体に考える現象や、クルマを単なる移動手段の一部として見る傾向を切り取って表現したものだ。

そうした中、クルマとライフスタイルとのつながりが強まっている。つまりは、商品としての個性の強さが、ユーザーを引き寄せるということだ。保護主義と言われようがなんだろうが、アメ車らしさを徹底追及する商材に魅了される日本人は、年齢層を問わず、これからまだまだ増えていくことだろう。

その点でいえば、クライスラーは2000年代にGM、フォードへの対応意識から、アメ車の枠を超えた事業戦略を強めていた。結果として「300C」などのヒット作は出たが、リーマンショックの影響で商品開発が滞り、“アメ車らしさ”が弱まってしまった。FCA体制に移行する中でラムトラックの分離とジープの原点回帰が実施される一方、クライスラーのアメ車らしさはいまだに弱い。こうした商品のイメージが、日本市場にマッチしなかったのではないか。

ジープは、今回、FCAジャパンの大幅な事業方針の転換を受けて、勢いを増すだろう。アメリカの保護主義がジープという商品に対するプラス要因となることで、このブランドの日本での人気が定着することを願っている。

(文=桃田健史/写真=webCG/編集=関 顕也)

2017年12月にデビューした、新型「ジープ・ラングラー」。ジープブランドは日本においては、1990年代にホンダ系ディーラーで「チェロキー」の販売が強化されたのをきっかけに、一気に人気が高まった。その後は、クライスラーと三菱、クライスラーとダイムラーなど、さまざまな資本提携に巻き込まれる中で、商品として低迷する時期も見られた。
 
2017年12月にデビューした、新型「ジープ・ラングラー」。ジープブランドは日本においては、1990年代にホンダ系ディーラーで「チェロキー」の販売が強化されたのをきっかけに、一気に人気が高まった。その後は、クライスラーと三菱、クライスラーとダイムラーなど、さまざまな資本提携に巻き込まれる中で、商品として低迷する時期も見られた。
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桃田 健史

桃田 健史

東京生まれ横浜育ち米テキサス州在住。 大学の専攻は機械工学。インディ500 、NASCAR 、 パイクスピークなどのアメリカンレースにドライバーとしての参戦経験を持つ。 現在、日本テレビのIRL番組ピットリポーター、 NASCAR番組解説などを務める。スポーツ新聞、自動車雑誌にも寄稿中。

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