白と黒のSUVと20年落ちのマークII

映画では、このキャスティングにもトリックの役割がある。俳優のイメージで判断していると、思わぬ勘違いをしてしまうからだ。セクシー、優男、美女、一癖。わかりやすい図式が描かれているが、そのまま信用していいかどうかはわからない。

服装や持ち物などが、人物造形を補強する。その中で大きな役割を与えられているのが、彼らが乗るクルマだ。木原坂は黒の「メルセデス・ベンツG350」を所有している。軍事車両をルーツとするGクラスは、力強くマッチョなイメージが強い。黒いボディーカラーだと、威圧感は倍増する。価格の高さから、セレブ系の匂いを感じる人もいるかもしれない。

彼の姉である木原坂朱里(浅見れいな)は、白い「ポルシェ・カイエン ターボ」。弟を溺愛していて近親相姦(そうかん)の疑惑もかけられているほどだから、好みが似ていてSUV好きなのだ。ただし、Gクラスよりは洗練のイメージが強い。彼女は世界を飛び回る投資家で、金はふんだんにある。ボディーカラーが白だからといって、無垢(むく)で純粋であることを意味しているとは言えない。

耶雲は金のない記者だから、クルマは中古だ。「トヨタ・マークII」のワゴンである。5代目モデルなので、最終型だとしても20年落ちだ。こういうクルマを選ぶのは、実直で真面目な人物に決まっている。オンボロであっても、恋人とのドライブは楽しそうだ。

小説では、クルマの描写はほとんど出てこない。木原坂が「青のセダン」に乗っていると書かれているだけなので、キャラクターの性格を判断するのは無理である。恐らく、作者はあまりクルマに詳しくないのだろう。

映画の製作陣には、クルマ好きがいたようだ。Gクラス、カイエン、中古のマークIIワゴンというセレクトは的確である。クルマ選びは地味な作業だが、叙述トリックを使った小説を映像化するという困難な作業を支えた大事な役回りなのだ。

(文=鈴木真人)
 

©2018映画「去年の冬、きみと別れ」製作委員会
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「トヨタ・マークII」
「コロナ」から派生したモデルで、1968年に「コロナマークII」として登場。コロナの冠が取れたのは、映画に出てくる5代目から。2004年に「マークX」へと発展した。
「トヨタ・マークII」
	「コロナ」から派生したモデルで、1968年に「コロナマークII」として登場。コロナの冠が取れたのは、映画に出てくる5代目から。2004年に「マークX」へと発展した。拡大
『去年の冬、きみと別れ』
2018年3月10日(土)、全国ロードショー
『去年の冬、きみと別れ』
	2018年3月10日(土)、全国ロードショー拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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