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カワサキZ900RS(MR/6MT)

いいじゃねーか! 2018.03.30 試乗記 後藤 武 往年の名車「Z1」を思わせるデザインをまとって登場した、カワサキの新型バイク「Z900RS」。その走りは、ベテランライダーの期待に応えてくれるのか。Z1のオーナーでもあるモーターサイクルジャーナリスト、後藤 武が試乗した。

予想通りの大ブレーク

ここ最近、二輪界で最も大きなニュースといえばZ900RSのブレークだろう。発売前からカワサキが流した動画や写真で、世界中のライダーたちがSNSで盛り上がり、2017年の東京モーターショーで姿を現した途端に大ブレーク。予約が殺到した。発売されてすぐに2018年度の生産分を売りつくしてしまったという人気ぶりである。

1970年代後半の「Z400FX」や80年代後半の「ゼファー」が登場した時の人気をほうふつさせる。あの時もまったく同じような感じだった。それまでにない4気筒のマシンが登場してくることを人々は待ち焦がれ、発売と同時に販売店に駆け込んだ。手に入れたくても入手できない状況もそっくりだ。

Z900RSに夢中になっているライダーたちの多くは、実を言うとこの2台をリアルタイムで経験している。両方合わせれば大変な数になる。カワサキが4気筒で似たような路線のマシンを出せば、ほぼ過去の刷り込みで条件反射的に反応することは容易に想像できた。しかもそれが憧れ続けていた「Z1」「Z2」のスタイルなのだからたまらない。

最新のエンジンや車体を流用して作られたマシンを疑問の目で見る人は少なくなかった。「どうせ形だけでしょう?」「乗ったら昔の音とかフィーリングなんてないはずだ」 うるさいライダーたちはそう考えた。何しろ今まで、“デザインだけ昔風のマシン”で散々だまされてきているのだから無理もない。

しかし、カワサキが偉かったのは(上から目線で失礼!)、こういったうるさいライダーたちも黙らせてしまうようなサウンドとエンジンのフィーリングを作り上げてしまったことだった。

2017年12月に国内で発売された、カワサキのネイキッドバイク「Z900RS」。同年10月の東京モーターショーに出展された際には、大いに反響を呼んだ。
2017年12月に国内で発売された、カワサキのネイキッドバイク「Z900RS」。同年10月の東京モーターショーに出展された際には、大いに反響を呼んだ。拡大
試乗車のボディーカラーは、「キャンディトーンブラウン×キャンディトーンオレンジ」。“火の玉カラー”と通称されるカワサキの伝統的なカラーをイメージしている。
試乗車のボディーカラーは、「キャンディトーンブラウン×キャンディトーンオレンジ」。“火の玉カラー”と通称されるカワサキの伝統的なカラーをイメージしている。拡大
エンジンは948ccの直列4気筒。アルミダイキャスト製のカバー類を用いるなど、質感の演出にもこだわりが見られる。
エンジンは948ccの直列4気筒。アルミダイキャスト製のカバー類を用いるなど、質感の演出にもこだわりが見られる。拡大
排気系にはメガホンタイプの集合管を採用。マフラーエンドは車体右側に振り出される。
排気系にはメガホンタイプの集合管を採用。マフラーエンドは車体右側に振り出される。拡大

さすが手だれのカワサキ

Z900RSの感動が始まるのは、エンジンを始動した瞬間だ。力量感にあふれた太い排気音と共に目覚める。スロットルを開ければズドンと力強い吹け上がり方をする。往年のビックバイクのような、「大地を揺さぶるがごときフィーリング」まではいっていないけれど、それを経験してきたライダーたち(僕のことだ)の脳裏に昔の感動を思い起こさせるには十分すぎるくらい。こんな4気筒のフィーリングを待ち望んでいた人は多いだろう。

ワクワクしながらクラッチをつないで走りだした瞬間、喜びはさらに大きく膨れ上がる。予想を超えた太い低速トルクで蹴飛ばされたように車体が動き出すからだ。この排気音と太い低中速トルクによる加速は本当に楽しくて、実際僕も含め、周囲の友人たちも走りだしたところで「おお、いいじゃねーか」と感動する。

高効率を追求した結果「味がない」とか「速いけど面白くない」と言われたエンジンとは大違い……なのだけれど、実はベースになっているエンジンは、バリバリの現行モデル「Z900」。つまりカワサキは、最新のエンジンを使って低中速トルクを向上させ、サウンドチューニングという手法でこのエンジンフィーリングを作り上げてしまった。素晴らしいことである。

Z900RSでもうひとつ、ライダーたちを喜ばせたのがハンドリングだ。17インチで旋回性を考えたバイクとはあきらかに違っていて、車体がどっしりとしている。ビックバイクらしい、しっとりした動きでバイクがバンクする。ホンダが「CB1100」を作った時、「ビックバイクらしいハンドリングには、操作してからバンクするまでのタメが必要」と言っていた。ホンダの場合は18インチのフロントホイールによるジャイロ効果などを利用して、その特性を作っていたが、Z900RSは、17インチホイールと倒立フォークでこのハンドリングを作っているわけだ。

伝統的な砲弾型のメーター。速度計とエンジン回転計の間には、ギアポジションや積算距離を表示する液晶パネルがレイアウトされる。
伝統的な砲弾型のメーター。速度計とエンジン回転計の間には、ギアポジションや積算距離を表示する液晶パネルがレイアウトされる。拡大
「Z900RS」には、車体の挙動を安定させる「KTRC(カワサキトラクションコントロール)」が備わる。モードは、システムの介入度合いの異なる2タイプが用意され、システムそのものをオフにすることもできる。
「Z900RS」には、車体の挙動を安定させる「KTRC(カワサキトラクションコントロール)」が備わる。モードは、システムの介入度合いの異なる2タイプが用意され、システムそのものをオフにすることもできる。拡大
リアには、「ホリゾンタルバックリンクリヤサスペンション」と呼ばれるモノショックが装着される。これにより、マスの集中化が図られている。
リアには、「ホリゾンタルバックリンクリヤサスペンション」と呼ばれるモノショックが装着される。これにより、マスの集中化が図られている。拡大
フロントフォークは、多くの高性能スポーツバイクに見られる倒立式のものが採用されている。ホイールのサイズは、フロント(写真)、リアともに17インチ。
フロントフォークは、多くの高性能スポーツバイクに見られる倒立式のものが採用されている。ホイールのサイズは、フロント(写真)、リアともに17インチ。拡大
「Z900RS」はアシスト&スリッパークラッチを装備。急なシフトダウンなど過度なエンジンブレーキが掛かった際、リアタイヤのホッピングやスリップを低減させる。
「Z900RS」はアシスト&スリッパークラッチを装備。急なシフトダウンなど過度なエンジンブレーキが掛かった際、リアタイヤのホッピングやスリップを低減させる。拡大
タンデムデザインのシート。専用工具ではなく、エンジン始動用のキーを使って脱着できる。
タンデムデザインのシート。専用工具ではなく、エンジン始動用のキーを使って脱着できる。拡大
クラシカルな表情を見せるヘッドランプは、LED式。ウインカーやテールランプにもLEDが採用されている。
クラシカルな表情を見せるヘッドランプは、LED式。ウインカーやテールランプにもLEDが採用されている。拡大
シート高は、ビッグバイクにしては低めの800mm。スリムな車体形状とするなど、ライダーの足つき性も配慮されている。
シート高は、ビッグバイクにしては低めの800mm。スリムな車体形状とするなど、ライダーの足つき性も配慮されている。拡大

元気すぎるのも困りもの

という感じで、多くのライダーが待ち望んでいた以上のビックバイクらしい印象になっているのだから、今のヒットも当然といえば当然。ちなみに今回、ストリートの試乗だったもので、ペースを上げて攻め込んだ部分にはあまり触れていないけれど、サーキット走行も楽しめるくらいの車体と、エンジンのパフォーマンスがある。

実を言うと個人的には、そのあたりがちょっとひっかかるところでもある。ショートスロークでクランクマスの小さいエンジンだから、回転が上がってくると元気になっていく。「高回転でも速いならそっちの方がいいじゃん」と思うかもしれないが、少し元気に走ろうとすると回転がヒュンと上がってしまう感じは、若干ではあるけれどせわしない。普段、一般道を走る時のスピードなんて平均にしてみたら(飛ばすひとでも)30km/hくらいにしかならないわけで、サーキットなど走る性能はいらないから、その分ストリートを楽しく走れる方向に振ったら、どんなバイクができるんだろうと思う。

実を言うと、僕のように昔からZの走りが好きで乗り続けているライダーたちが思うのはそこ。「Z900RSってとてもいいバイク。でも普段、道を走るならZ1にはかなわないね」ということになる。もっともカワサキはZ900RSでZ1を超えようなどとはハナから考えていないだろうし、今Z900RSに乗ろうとしている人たちもそこは求めていないから、これでいいのだろう。Z1ライダーとしては、ちょっと複雑な部分ではあるが。

(文=後藤 武/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)

 
カワサキZ900RS(MR/6MT)【レビュー】の画像拡大
シートを取り外すと、バッテリー(写真中央)やETC車載器(同右)にアクセスできるようになる。
シートを取り外すと、バッテリー(写真中央)やETC車載器(同右)にアクセスできるようになる。拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2100×865×1150mm
ホイールベース:1470mm
シート高:800mm
重量:215kg
エンジン:948cc 水冷4ストローク直列4気筒 DOHC 4バルブ
最高出力:111ps(82kW)/8500rpm
最大トルク:98Nm(10.0kgm)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:28.5km/リッター(国土交通省届出値 定地燃費値)/20.0km/リッター(WMTCモード)
価格:132万8400円

後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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