自動運転車が暴走するノンストップコメディー

最後はフランス映画。とはいっても、しっとりした恋愛映画ではない。『ボン・ボヤージュ 家族旅行は大暴走』は、ドタバタコメディーなのだ。夏休みが始まり、コックス一家はバカンスに出掛ける。整形外科医の父トム(ジョゼ・ガルシア)、臨月を迎えた精神科医の母ジュリア(カロリーヌ・ヴィニョ)と2人の子供。祖父のベン(アンドレ・デュソリエ)も加わって5人で海辺のリゾートへ。

乗っていくのは、最新モデルの「メデューサ」。3列シートのミニバンだ。聞き慣れない車名だと思ったのは当然だ。映画のために作られた架空のクルマである。元になっているのは「メルセデス・ベンツVクラス」なのだが、そのまま使うわけにはいかなかった。このメデューサ、とんでもない欠陥車なのだ。

売りになっているのは、人工知能を取り入れた最新の先進自動運転機能。モニターに向かって言葉で指示すると、システムが安全で快適な運転を代行してくれる。要するにACCで、今はごく普通の装備となっている。しかし、メデューサのシステムにはバグがあったらしく、減速ができなくなってしまった。130km/hからスピードが下がらなくなり、システムキャンセルを試みたのが失敗して設定速度が160km/hまで上がってしまう。

高速道路とはいえ、遅いクルマも走っている。間を縫うようにステアリング操作するのは至難の業だ。キツいコーナーもあるし、渋滞が始まったら一巻の終わり。最初は疑っていた警察も協力し、道路を通行止めにして惨劇を未然に防ごうとする。

1994年公開の映画『スピード』は、速度が低下すると起爆装置のスイッチが入る爆弾が仕掛けられたバスを使ったノンストップアクションだった。当時はまだ自動運転なんて夢の世界だったが、現在は実現可能性が見えてきている。暴走車を出現させるのに、犯罪を設定する必要はない。システムの不調で同じ状況を作ることができるので、コメディー映画に仕立てることができたのだ。あまり笑えなかったのは、現実世界で自動運転車がテスト走行中に死亡事故を起こしたばかりだったからだろう。

(文=鈴木真人)

『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』DVD
『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』DVD拡大
「メルセデス・ベンツVクラス」
1996年に商用車「Vito」の乗用車版として登場。3列シートで6人から7人が乗れるミニバンである。映画では、2014年にフルモデルチェンジを受けた3代目モデルを改造して「メデューサ」が作られている。
「メルセデス・ベンツVクラス」
	1996年に商用車「Vito」の乗用車版として登場。3列シートで6人から7人が乗れるミニバンである。映画では、2014年にフルモデルチェンジを受けた3代目モデルを改造して「メデューサ」が作られている。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

あなたにおすすめの記事
新着記事