第3回:ディーゼル車「V40 D4」で駆ける
頼もしいパートナー 2018.04.17 ボルボV40 解体新書 クリーンディーゼルエンジンを搭載する、ボルボのコンパクトハッチバック「V40 D4」。2015年夏の発売以来、国内で人気を集めてきたのはなぜか。装備充実のグレード「インスクリプション」に試乗してその理由を探った。輝きを増したデザイン
マイナーチェンジなどのタイミングで顔を“お直し”すると、得てして「あちゃー」ということになりがちだ。したり顔で、「デザインは前期型に限る」なんて言ったりもする。
けれども、ボルボV40はそうはならなかった。2016年のマイチェンで “トールハンマー顔”が与えられると、もともとスタイリッシュだったデザインがさらに魅力を増したのだ。トールハンマー顔とは、北欧神話に登場する雷神トールが手に持ったとされるT字型ハンマーをモチーフにしたLEDヘッドライトを軸に構成するフロントマスク。2015年にデビューした「ボルボXC90」で最初に採用されて以来、新世代ボルボを象徴する意匠だ。
往年の名(デザイン)車、「ボルボP1800」をモチーフにしたという、Cピラーのあたりでキュッと角度が上昇するキャラクターラインとトールハンマー顔が組み合わされることで、よりモダンなべっぴんさんになった。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」、「BMW 1シリーズ」など強豪がそろうこのセグメントでボルボV40が売れ続けている理由のひとつに、デザインの魅力があることは間違いない。
V40に限らず、最近のボルボのデザインで好ましいと思うのは、エクステリアとインテリアの世界観がきちんとつながっていることだ。外観と内装に整合性がなく、「あのカッコにこのレザーシート???」とか、建物にたとえれば「モダニズム建築なのに部屋は畳」というケースも散見されるけれど、ボルボは違う。シンプルでスタイリッシュでありながら、温かみを感じさせるというデザイン観が、一本の串となって内外装に貫かれている。
と、感心したところでエンジンをスタート。本日の試乗車は、最高出力190psを発生する2リッターのディーゼルターボエンジンを積む、ボルボV40 D4インスクリプションである。
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ライバルをしのぐ力強さ
シュッとした見た目とは裏腹に、走りだすとV40 D4インスクリプションは骨太な印象を乗り手に伝える。まず感じるのが、ディーゼルターボエンジンの力強さだ。
ゼロ発進からの、最初のタイヤのひと転がり、ふた転がりに、力感がみなぎっている。乱暴というのとは違うけれど、下っ腹にズシンとくる加速感だ。アクセルペダルを軽く踏み込む右足に、軽く力を入れるだけでグイッと前に出るから、信号で停止することが多い都心部でもストレスがない。そしてタイヤがふた転がりする頃には、ディーゼルっぽい音と振動は皆無になる。エンジンを高回転域まで回さなくても十分な加速をすることと合わせて、静かで滑らかな、高級な加速感を味わえる。
エンジンのスペックを見ると、この2リッターディーゼルターボエンジンは1750rpmという低い回転数で400Nmというぶっといトルクを発生する。同じセグメントで見ると、「BMW 118d」も2リッターのディーゼルターボエンジンを搭載していて、320Nmを1500rpmで発生する。V40 D4で体感する加速の力強さはスペック的にも裏付けられているのだ。
発進加速が力強いだけでなく、速度が上がってからもエンジンの回転フィールは滑らかさと静かさを保つ。回して楽しいエンジンではないけれど、アクセル操作に対する反応は俊敏で、少なくとも高速道路ではディーゼルエンジンであることを忘れてしまう。8段ATの変速は迅速かつショックも少なく、いかにも効率よくパワーを伝えている印象だ。ディーゼルというとエコカー的なとらえ方をしたくなるけれど、V40 D4に関していえば、プレミアム仕様だと思えてくる。
ボルボは2014年より、「Drive-E」というパワートレイン戦略を進めている。シリンダーの数は4気筒まで、排気量は2リッターまでと定め、ディーゼルとガソリンの基本構造を共通化。ここに開発の資源を集中して、ベースとなるエンジンを燃費と動力性能を両立する優秀なものにする。そしてモデルの性格に合わせてターボやモーターでキャラを変えるというのがDrive-Eの概略だ。V40 D4のパワートレインに接していると、この戦略がうまくいっていることを強く感じる。そしてD4の好印象の陰には、実は日本の企業も貢献している。
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ロングドライブに向いている
まず、力強さと省燃費性能、そして静かで滑らかというグランドスラムを達成したディーゼルエンジンには、きめ細やかに燃料をコントロールするデンソーの燃料噴射の技術が使われている。また、変速に気付かぬくらいシームレスにギアを変える8段ATはアイシン・エィ・ダブリュ製だ。
ボルボ V40 D4のドライブフィールが骨太に感じるもうひとつの理由は、がっしりした車体と足まわり。荒れた路面のコーナリングでもびくともしないボディーは、いかにも強くて硬いものに保護されていると感じる。エクステリアもインテリアもやわらかい北欧デザインなのに、大昔、ツーリングカーレースを走る「ボルボ240ターボ」が「フライング・ブリック(空飛ぶレンガ)」と呼ばれていた頃を思い出した。姿形は変わっても、強いボディーで乗員を守る安全思想は変わっていないのだろう。
足まわりもしっかりしているが、タウンスピードで不快に感じるほどの硬さではない。ステアリングホイールから伝わる手応えも骨っぽいから、乗り味は重厚だ。高速道路で速度を上げると、重厚感がどっしりした安定感へと変わる。しっかりした足まわりはボディーをフラットに保つから快適だ。乗り心地に関していえば、街中をちょこまか走り回るよりも、地平の果てを目指してロングドライブをするような使い方のほうが向いている。
ワインディングロードでは曲がるのが得意な一面も見せてくれる。ステアリングホイールの操作に対して思ったように向きを変える運動神経のよさには、左右の前輪のトルク配分を制御する「コーナートラクションコントロール」がひと役買っているはずだ。
前述したようにエンジンのピックアップがよく、軽快にコーナーの連続をクリアできる。エンジンをそれほど回さずにコーナリングを楽しんでいると、高回転までブン回していた頃はなんて野蛮だったのだろうとしみじみ。
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がんがん乗る人におすすめ
ロングドライブでは、運転支援装置がアシストしてくれる。このモデルに限らず、ボルボV40の全モデルが11種類以上の先進安全装備「インテリセーフ」を標準装備しているのだ。
例えばアダプティブクルーズコントロールをセットすれば先行車両と適切な車間距離をとりながら追従し、うっかり白線を踏んだりはみ出しそうになると、レーンキーピングエイドが車線内にとどまるように、ステアリング操作を自動でアシストしてくれる。もちろん、ボルボが世界に先駆けて開発した歩行者エアバッグも備わる。
といった具合に、ボルボV40 D4はデザインにひと目ぼれして買うもあり、クルマや運転が好きな人が買ってもよし。だけど安全装備を含めたポテンシャルを考えれば、趣味に仕事にがんがんクルマを使う人が乗るのが一番ではないかと思わされた。温泉旅行でもゴルフでも釣りでもサーフィンでもなんでもいいけれど、定期的にクルマで遠くへ行かれる方にうってつけだ。高速性能といい良好な燃費といい、オシャレなだけでなく使ってナンボのクルマだ。
使ってナンボだと思えるのは、クルマとして完成していると感じるからだ。ボルボは、この春より日本に導入された「XC40」から、「CMA(コンパクト・モジュラー・アーキテクチャー)」という新しい小型車用のプラットフォームを採用している。ということは、V40の車体の基本骨格は1世代前ということになるけれど、古く感じるというよりも、むしろ熟成した印象を受けたのだ。ひとつの完成型としてV40を選ぶのもアリだろう。
(文=サトータケシ/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
ボルボV40 D4インスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1440mm
ホイールベース:2645mm
車重:1550kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W/(後)225/45R17 91W(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:20.0km/リッター(JC08モード)
価格:439万円/テスト車=468万3000円
オプション装備:パノラマガラスルーフ(19万円)/ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(10万3000円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:5465km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:266.0km
使用燃料:16.6リッター(軽油)
参考燃費:16.0km/リッター(満タン法)/17.4km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。