アウディRS 3セダン(4WD/7AT)
粋を解するオトナに 2018.05.17 試乗記 コンパクトなセダンボディーに最高出力400psの直5ターボエンジンを詰め込んだ、ホットハッチならぬ“ホットセダン”、それが「アウディRS 3セダン」だ。大仰な空力パーツなどではアピールしない、隠れた高性能モデルの実力とは?RS 3はセダンがイチオシ!?
「アウディA3」シリーズの最高峰、というか“別格”の高性能モデルが、アウディスポーツGmbHのプロデュースする「RS 3」である。2017年モデルでマイナーチェンジされ、同年秋から日本でもデリバリーが開始された。今回乗ったのは、まずセダンから用意された日本仕様の試乗車である。
おさらいすると、先のマイナーチェンジでのハイライトは、虎の子(?)の5気筒2.5リッターエンジンが367psから400psにパワーアップしたことである。最大トルクも465Nmから480Nmに向上した。
新世代プラットフォームでデビューしたRS 3が日本にやってきたのは、2015年秋。A3初の“RS”は、「2リッター量産エンジン最強」を公言する「メルセデスAMG A45 4MATIC」とそのころからつばぜり合いを演じていた。RS 3に対抗して、A45はパワーを360psから381psに上げ、モデル名の由来でもあった450Nmのトルクも475Nmに引き上げて、現在に至る。という経緯を振り返ると、最新型RS 3のアウトプット数値の“意味”が理解できようというものだ。
“RS 3のセダン”は、この400psモデルがお初である。A3シリーズは5ドアハッチの「スポーツバック」に人気が集中しているのかと思ったら、日本では「セダン」が4割近く(2017年)と健闘している。RS 3も“セダン押し”なのかもしれない。
踏めばスゴイが平熱は低め
セダンだから、パッと見、派手さはないものの、よく見れば、たしかにRS 3である。大きなシングルフレームグリルのなかも、両サイドの低い位置に開くインテークも、メッシュ部分はダミーではなく、すべて貫通している。フォーシルバーリングスのなかも目の詰んだメッシュだ。貪欲に走行風を取り入れようという魂胆である。
リアバンパー下の左右からは、極太のテールパイプが顔を出す。19インチのアルミホイールや、そこからのぞく赤いブレーキキャリパーも、「即ニュルブルクリンク走行可」の迫力だ。アウディのレース部門でもある“Audi Sport GmbH”の文字が刻されたシャシーナンバープレートは、運転席ドアを開けたヒンジの近くに貼ってあり、乗り降りするたびに見える(見せる)ようになっている。
だが、走りだしたRS 3に、レーシングライクと感じるような荒さは、みじんもない。235/35R19の「ピレリPゼロ」は、高性能車の硬さを伝えてくるが、バネ下の軽さを実感させる“軽い硬さ”だから、ふつうに付き合える。
エンジンも、踏めばスゴイが、平熱は低い。ダイナミックモードを選んでも、音がとくべつレーシーになるわけではない。ふだんから“サーキットもの”であることを隠さないメルセデスAMG A45とは対照的だ。ハイパフォーマンスよりもまずハイクオリティーで訴える仕立てのよさは、最近のアウディRSモデルすべてに共通するキャラクターである。
実際よりもさらにコンパクトに感じる
1年半前に乗った367psのスポーツバックと、オールアルミ化された400psエンジンのセダン。正直言ってエンジン単体の違いは、よくわからなかった。
だが、このRS 3セダンは、以前乗ったスポーツバックより40kg重い。ボディー全長は約13cm長い。にもかかわらず、367psのスポーツバックよりも乗っていてさらにコンパクトな印象を受けた。パワー/トルクの向上がキビキビ感を増して、ボディーをいっそう小さく感じさせたのだと思う。
実際、RS 3セダンで一番うれしいのは、このコンパクトさである。運転していると、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」より小さく感じる。ギュッとコンパクトだから、400psもこわくない。
デジタル計器盤にはパワー/トルクメーターがあり、パーセンタイルで現在発生中の出力とトルクを教えてくれる。街なかだと、宝の持ち腐れメーターにほかならないが、サーキットランでは努力目標の指針になりそうだ。
歴40年を超えるアウディ5気筒の最新バージョンは、ツッコミどころのない出来である。5気筒といわれてみると、回転フィールに4気筒より多少、噛み応えがあるような気がするが、4気筒に対する3気筒のような大きな差はない。
ただ、撮影のときに動かしていると、クルマ好きのKカメラマンが「けっこうガチャガチャいいますね」と言った。Sトロニックのギアノイズだ。この400psユニットを初めて搭載した「TT RSクーペ」に乗ったときも、スロットルのオンオフで変速機からコツコツと音が出ることがあった。そこまでではないが、今回の試乗車でもデュアルクラッチ変速機がたまに自己主張することがあった。
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“生”の5気筒エンジンはこれでおしまいか!?
約340kmを走って、燃費は9.2km/リッター(満タン法)だった。いつもより多めに走った山道では、パワー/トルクメーターを参考にガンバったことを思えば、ワルくないと思う。
全長4480mmといえば、「カローラ」のセダンより8cm大きいだけである。全幅は1800mmあるが、車内にいると、正味の広さはそこまで感じない。
そのコンパクトなセダンボディーに400psの2.5リッター5気筒20バルブ ターボを積んだのが、RS 3セダンである。RSとは、ドイツ語で“レン・シュポルト”、つまりレーシングスポーツのこと。0-100km/hの公式加速データは、4.1秒。この数値が4秒をきるとスーパーカーだと個人的には認識している。ということは、スーパーカーにほぼ近いコンパクトセダンである。
それなのに、RS 3セダンはレーシングカーのように激しくもなければ、スーパーカーのように派手でもない。価格は785万円。クルマの酸いも甘いもかみ分けた、粋(いき)なクルマ好きのクルマだと思う。
2013年以来の現行A3には、フルチェンジも迫っている。それをベースにした次期RS 3の登場には時差があるだろうが、電動化の流れのなかで、果たして5気筒エンジンの処遇はどうなるのか。ひょっとしたらこれがアウディ5気筒生エンジンの最高到達点かも、と思わせる“ひき”もこのRS 3にはある。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
アウディRS 3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1380mm
ホイールベース:2630mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400ps(294kW)/5850-7000rpm
最大トルク:480Nm(48.9kgm)/1700-5850rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ピレリPゼロ)
燃費:11.0km/リッター(JC08モード)
価格:780万円/テスト車=852万円
オプション装備:ボディーカラー<カタルーニャレッドメタリック>(0円)/高さ調整機能<サイドサポート>(0円)/アウディマグネティックライド(13万円)/マットアルミニウムスタイリングパッケージ(9万円)/デコラティブパネル<カーボンファイバー>(7万円)/RSデザインパッケージ<RSスポーツシート+レッドアクセントリング付きエアコン吹き出し口+フロアマット>(21万円)/マトリクスLEDヘッドライト+フロントダイナミックターンインジケーター(11万円)/カラードブレーキキャリパー<レッド>(5万円)/プライバシーガラス(6万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1156km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:338.6km
使用燃料:36.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/8.9km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。