進化する人体模型

衝突実験に不可欠な「ダミー人形」。トヨタには21種で計200体、ここ東富士研究所にはうち70体のダミー人形があるそうだが、彼らがズラリと並んだ「ダミー室」は、一種独特な雰囲気だった。人体の受ける衝撃を各種センサーで計測するダミーにも、より細かな計測が可能なトヨタの独自開発による「ハイメカダミー」があり、一般的なダミー価格が一体1500万円ほどであるのに対して、ハイメカは開発費込みで2億円もするそうだ。「地球より重い」人命を救う役割を果たしているダミーには、やはりそれなりの予算が与えられるということか。

人体に加わる衝撃そのものはダミーで計測できるが、傷害のメカニズムの解析までは難しい。それを可能にするためにトヨタが独自開発した、人間の頭のてっぺんからつま先まで、骨格から筋肉、内臓を忠実に再現したバーチャルな人体解析モデルが「THUMS」(サムス、Total HUman Model for Safetyの略)。事故が人体に与える傷害とその影響を、コンピューター上で解析するソフトウェアである。

1997年から開発を始め、2000年に登場したバージョン1では主に骨折、2005年のバージョン3では脳障害、そして昨2010年にフルモデルチェンジしたバージョン4では内臓傷害の解析・予測までが可能になった。ダミー同様に中柄の男性、小柄な女性、妊婦、子供といった体形と年齢のバリエーションがあり、今後は高齢者なども加わる予定という。
「THUMS」は開発したトヨタのみならず、今や世界30社以上の自動車メーカーや研究機関で使われており、F1やNASCARの衝突安全性の向上にも貢献しているそうだ。世界が認める、意外なトヨタの独自技術が存在していたのである。

以上のほかにも歩行者傷害軽減ボディや同じく歩行者保護のためのポップアップフードといった技術展示、さらにはステアリングホイールに埋め込んだ心電センサーで心血管の異常を判定することにより、心不全など運転中の体調急変に対応するシステムの紹介など、現時点におけるトヨタが具体化した安全技術が数多く公開されていた。

(文と写真=沼田 亨)

乳児から成人までの各種ダミー人形がそろった「ダミー室」。想像するに、夜間のパトロールは遠慮したい光景である。
乳児から成人までの各種ダミー人形がそろった「ダミー室」。想像するに、夜間のパトロールは遠慮したい光景である。 拡大
「クラッシュテスト」で「ヴィッツ」と衝突した後の「クラウン」。キャビンにはほとんど変形が見られない。ニーエアバッグが有効であろうことを実感した。
「クラッシュテスト」で「ヴィッツ」と衝突した後の「クラウン」。キャビンにはほとんど変形が見られない。ニーエアバッグが有効であろうことを実感した。 拡大
骨格から筋肉、内臓までを忠実に再現したバーチャルな人体解析モデルである「THUMS」のイメージ図。
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