常に破壊されている第4の壁

前作の『デッドプール』は2016年に公開された。マーベルコミックを原作とするスーパーヒーロー映画だが、『アベンジャーズ』や『X-MEN』といったシリーズとはかなり肌合いが違う。主人公は正義を愛する品行方正な超人ではない。傭兵(ようへい)あがりのウェイド・ウィルソンは末期がんと診断された。治療のために人体実験を受け入れたことでミュータント遺伝子が活性化し、不死の体を手に入れる。地球を守る使命なんて持っていないし、誰が先に死ぬかの賭けを意味するデッドプールという名も不真面目さ全開だ。

前作では売春婦のヴァネッサ(モリーナ・バッカリン)とラブラブになったところで終わっていたが、『2』では冒頭で彼女が非業の死を遂げる。新たな敵として現れたのが、未来からやってきたケーブルだ。『とらわれて夏』では感動的な大人の恋を見せてくれたジョシュ・ブローリンが、半分人間で半分機械の殺人マッチョ男を演じている。

ミュータント養成所では、火の玉を操る特殊能力を持った肥満体の少年ファイヤーフィスト(ジュリアン・デニソン)が制御不能に陥って混乱を巻き起こしていた。デッドプールは生体金属超人のコロッサスに無理やり誘われてX-MENに見習いとして加入し、ファイヤーフィストの捕獲に協力することになる。しかし、暴走したあげく2人とも捕らえられて収監されてしまうハメに。

ストーリーを追えばそういう話になるのだが、この作品は単線的な進み方をしない。デッドプールは常に観客に対して自分の置かれている状況を説明し、物語の背景を分析して説き聞かせる。いわゆる第4の壁は完全に破壊されており、作品世界は斜め上から監視されているのだ。

第4の壁を語るのにブレヒトやゴダールを持ち出す時代はとうに終わり、今やエンターテインメントの技法として普通に使われている。中でもこの『デッドプール』シリーズは、それが作品の根幹を支える重要な構成要素となっている。デッドプールは時に俳優のライアン・レイノルズとして語ることさえあるのだ。やたらにウルヴァリンをディスったり、『グリーン・ランタン』をバカにしたりすることには、彼の俳優としての黒歴史が関係している。

(C)2018Twentieth Century Fox Film Corporation
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第172回:インド人タクシー運転手はヒーローになれるか?『デッドプール2』の画像拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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