死傷者ゼロはクルマの進化だけでは難しい

実際にハンドルを握り、自動ブレーキが事故を回避してくれることを体験すると、確かに最新の自動ブレーキはすごい! と感じる。しかしながら、必ずしも自動ブレーキが作動すれば衝突回避できるわけではないのも事実だ。開発担当者によると、「今回の体験は、ほぼ確実に回避できるシチュエーションを想定しているが、それでも絶対ではない」という。また自動ブレーキの作動には、日差しや路面状況などそのときの状況で判断し、最適な制御を行うため、同じようなシチュエーションであっても全く同じ作動状況にはならないと断言された。実際、同日の体験者の中には、衝突被害軽減にとどまったケースもあった。

また画像認識は、さまざまなパターンを覚えさせ、それに合致するものを人や自転車と認識する。そのため、幼児や自転車を押して横断する歩行者など、状況によっては人として判断できないケースもあるのだ。また自転車などスピードの速いものは、早めに検知することができない限り、衝突回避が難しい。

もちろん、自動ブレーキの存在によって救われる命があるのは間違いない。ただこれらの先進機能を使う際に忘れてはならないのは、決して自動運転機能ではなく、あくまでドライバーをサポートするものであるということだ。高性能センサーは、人の目よりも優れた面もあるが、激しい雨や靄(もや)のかかった状況など、人間の目で見づらい状況は、やはりセンサーにとっても厳しい環境なのだという。またレーダーといえど、クルマや建物の陰に隠れた人を捉えることができるわけではない。先ほどの体験で、突然、飛び出してきたように感じた子供も、実際は目視で発見できる状況があったのに、ドライバーが注意を怠っていたにすぎないのである。また作動速度域にあっても、相対速度が速いほど回避は難しくなる。道路状況に合わせた運転が大切なことに変わりはないのだ。

近年の自動車の安全性向上により交通事故死傷者は激減した。しかしながら、それを限りなくゼロにするには、クルマの進化だけでは難しい。交通環境の改善に加え、ドライバーや歩行者などが、交通安全により積極的に取り組むことも重要なのだ。人だけでもクルマだけでもなく、人とクルマが協調することこそが、さらなる安全な交通環境実現に近づく大切な一歩となることをわれわれは強く意識すべきだろう。

(文=大音安弘/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=近藤 俊)

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