バイワイヤ技術への抵抗?

それ以上に思いを巡らせたくなるのは、アトキンソンの頭の中である。

年明けセールが発表されたのは1994年だ。自動車でアクセラレーションをメカニカルリンケージではなく電子を介して制御する「スロットルバイワイヤ」はすでに実現していた。

同時に次の段階として、ドライバーによるさまざまな操作を機械式リンケージから解放し、究極はステアリング操作までそれに替えようという「ドライブバイワイヤ」が積極的に模索されていた時期だった。

アトキンソンが大学で電子工学を専攻していたことは有名だ。ドライブバイワイヤの情報が耳に入っていたことは想像に難くない。

しかしながら人間は、目に訴えかけてくるメカニカルなリンケージに心揺さぶられる。それはたとえ古いテクノロジーであろうと同じだ。蒸気機関車の外側に付いたピストンがクロスヘッドと呼ばれる機構を介して主連棒に伝えられ、巨大な動輪を回すさまは、リニアモーターカーが実現した今日においても多くの人々の目を楽しませる。身近なところでは、スケルトンのケースをもつ機械式時計も同じだ。

今回の特別展示で、最も多くの一般客がスマートフォンのカメラを向け、また代わりばんこで記念撮影を楽しんでいたのは、歴代ボンドカーではなく、実はこのMINIだった。

エレクトロニクスを学んだ自身の経験を暗示するように、劇中のMr.ビーンは、たびたび電気製品や配線を自分で直そうとする姿を演じている。

同時に、アトキンソンはヒストリックカーイベント、ミッレミリア出場歴もあるほどのクルマ好きである。

屋根上からモップとひもでMINIを操るシーンは、彼のバイワイヤ時代に対するアンチのメッセージが含まれていたと筆者は読んだのである。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、BMW/編集=藤沢 勝)

2015年『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』の走行シーン撮影のため、“3輪”に改造された「BMW S1000RR」。そのつくりはもはや職人技の領域である。
2015年『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』の走行シーン撮影のため、“3輪”に改造された「BMW S1000RR」。そのつくりはもはや職人技の領域である。拡大
2011年『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』の「BMW 640dコンバーチブル」。
2011年『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』の「BMW 640dコンバーチブル」。拡大
『Mr.ビーン』の「オリジナルMINI」には「My Car! Mr.Bean」のサインが。
『Mr.ビーン』の「オリジナルMINI」には「My Car! Mr.Bean」のサインが。拡大
別の部分には、ローワン・アトキンソン名でメッセージが記されている。
別の部分には、ローワン・アトキンソン名でメッセージが記されている。拡大
特別展の会場で“Mr.ビーンのMINI”は一番人気であった。
特別展の会場で“Mr.ビーンのMINI”は一番人気であった。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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