有名人が争って購入した「ミウラ」

1963年6月、チェントから近いサンタアガタ・ボロネーゼにアウトモビリ・フェルッチョ・ランボルギーニ(フェルッチョ・ランボルギーニ自動車)が誕生する。その年の10月、トリノショーに出展されたのが「350GTV」である。フロントノーズには勇ましい闘牛をかたどったエンブレムが付けられていた。フェルッチョがおうし座生まれであり、自らをタフな闘牛になぞらえていたからである。350GTVは前衛的なスタイルが評判を呼び、さっそく生産に移すためにモディファイが施された。翌年のジュネーブショーに展示された「350GT」がその生産モデルである。

350GTは排気量を拡大して「400GT」に発展し、完成度を高めて評価を確立した。トラクターのイメージは薄れ、ランボルギーニは急成長を遂げた自動車会社と認識されるようになった。さらに名声を高めたのが、1966年に発表された「ミウラ」である。V12エンジンをミドに搭載した画期的な2シータースポーツカーで、多くの自動車メーカーが追随することになる。

デザインを担当したのは、マルチェロ・ガンディーニである。流麗な美しいボディーはこれまでに誰も見たことのないもので、ミウラは世界中で話題となった。ランボルギーニには注文が押し寄せ、14カ月のバックオーダーを抱えることになった。顧客リストには有名人が名を連ね、フランク・シナトラ、ディーン・マーチン、グレース・ケリー、イランのパーレビ国王らが争って手に入れた。

ミウラとはスペインのセビリアにある大農園の当主の名で、強くたけだけしい闘牛を育ててきたことで知られる。ランボルギーニのモデル名には闘牛にちなむ名が付けられるのが恒例となった。1971年に発表された「カウンタック」は例外である。イタリア語では本来“クンタッチ”と発音される言葉で、ピエモンテ方言で驚いた時に口に出す感嘆詞なのだ。再びガンディーニがデザインしたこのモデルは、ランボルギーニの名声を揺るぎないものにした。しかし、この頃ランボルギーニ社は危機に陥っていたのである。

イタリアでは1969年から“熱い秋”と呼ばれる政治の時代を迎え、ランボルギーニ社でも労働争議が頻発した。トラクター会社では従業員が工場を占拠し、生産不能状態になった。折悪(あ)しくボリビア政府から受けていた5000台ものトラクターの受注がキャンセルされ、大量の在庫を抱え込むことになってしまう。1970年代に入ると状況は好転の兆しを見せたが、フェルッチョの情熱はすでに失われていた。自動車会社とトラクター会社を売却し、自らは58歳で農園に引っ越したのである。

ランボルギーニ社は何度も危機的な状況を繰り返し、1987年にクライスラーの傘下に入った。1999年からはアウディグループに移り、現在では見事に復活を果たしている。フェルッチョは混乱に関わることはなく、農園で新たな事業を始めた。ワイン作りである。自ら畑に出てトラクターを操り、ぶどうを収穫した。赤ワインの名は、“ミウラの血”。フェルッチョは、情熱を向けるべき新たな道を見つけたのだ。

(文=webCG/イラスト=日野浦 剛)
 

1963年のトリノショーに出展されたコンセプトカー「350GTV」。そのフロントには、今日に受け継がれる牡牛(おうし)のエンブレムが装着されていた。
1963年のトリノショーに出展されたコンセプトカー「350GTV」。そのフロントには、今日に受け継がれる牡牛(おうし)のエンブレムが装着されていた。拡大
「350GTV」の市販版としてデビューした「350GT」。車名の通り、3.5リッターV12エンジンを搭載した高性能GTカーだった。
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1966年にデビューした「ミウラ」。それまでのモデルとは異なり、レーシングカーを思わせるミドシップのエンジンレイアウトを採用していた。写真は1971年に登場した改良モデル「P400SV」。
1966年にデビューした「ミウラ」。それまでのモデルとは異なり、レーシングカーを思わせるミドシップのエンジンレイアウトを採用していた。写真は1971年に登場した改良モデル「P400SV」。拡大
「ミウラP400SV」の4リッターV12エンジン。後継モデルの「カウンタック」とは異なり、エンジンは横置きに搭載されていた。
「ミウラP400SV」の4リッターV12エンジン。後継モデルの「カウンタック」とは異なり、エンジンは横置きに搭載されていた。拡大
フェルッチョが手放してから、あまたの持ち主のもとを転々としてきたランボルギーニ。現在はアウディの傘下となっている。
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