ポルシェ・パナメーラ4 Eハイブリッド スポーツツーリスモ(4WD/8AT)
ポルシェらしさに満ちている 2018.07.18 試乗記 電動パワートレインを搭載した、“シューティングブレーク”スタイルの高性能ツアラー「ポルシェ・パナメーラ4 Eハイブリッド スポーツツーリスモ」。ラインナップ拡充と電動化を推し進める今日のポルシェを象徴するかのような一台に、リポーターは何を感じたか?荷室容量よりスタイルで選ぶ
たまたまなのだけれど、ポルシェに乗る機会が続いた。このパナメーラ4 Eハイブリッド スポーツツーリスモに試乗した翌日に、「マカンGTS」と「718ケイマンGTS」で軽井沢へ行き、「911カレラGTS」にも乗った。RRの基本形、ミドシップのスポーツカー、ハイパワーな4WDのSUV、そしてプラグインハイブリッド(PHV)のシューティングブレーク。ポルシェがいつの間にか幅広いレンジのモデルをラインナップするようになったことを実感する。
シューティングブレークと書いてしまったが、ポルシェがそういう表現をしたわけではない。プレスリリースには「パナメーラの新しいボディーバリエーション」とあるだけで、ワゴンとも言っていないのだ。実際のところ、普通のパナメーラと比べても荷室容量はほぼ同じ。荷物をたくさん載せたいがためにこのモデルを選ぶ人はあまりいないだろう。しかも、PHVモデルは荷室の下にバッテリーを配置しているので、荷室容量はガソリンエンジンモデルの520リッターをはるかに下回る425リッターである。
荷室よりも大きな違いがあるのは後席だ。スポーツツーリスモは一応3人掛けということになっている。ただ、「4+1シートコンセプト」と名付けられていることからもわかるように、およそ実用的ではない。真ん中には太いトンネルが位置しているから、両足ではさみこむ形になる。うちは5人家族だから、という理由で選ぶのはやめたほうがよさそうだ。
選択の基準は、実用性よりフォルムの好みだろう。長いルーフラインが好きならスポーツツーリスモに目が行くはずだ。丸っこいリアスタイルが好きならば標準のパナメーラを選べばいい。
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PHVでも走り志向
「カイエン」やマカンといったSUVが販売上では主力となり、さらにパナメーラシリーズを成功させることで経営基盤は揺るぎないものになる。スポーツツーリスモはラインナップ拡大という重要な使命を帯びているのだ。日本では5種類のモデルが選べるようになっている。総合出力が680psというとてつもないハイパワーモデルの「ターボS Eハイブリッド スポーツツーリスモ」が頂点にあり、今回試乗したモデルはちょうど真ん中という位置だ。
PHVなのだから環境性能にも目配りがしてあるはずだ。スペックを見ると、燃費は2.5リッター/100kmとある。日本で使われている方式で表せば、40.0km/リッターだ。「プリウスPHV」をしのぐ数字ではないか。ポルシェが本気を出すと燃費性能も世界一になるのかと驚いたが、「NEDC複合モード」の数字だから慣れ親しんでいるJC08モード燃費とは計算方式が異なる。実際に走ってみると、燃費はリッターあたり10km程度だった。実燃費が約7km/リッターの「パナメーラ ターボ スポーツツーリスモ」に比べれば良好だが、エコカーのカテゴリーに入れるのは無理がある。
2.9リッターV6ツインターボエンジンの最高出力は330psで、モーターの136psが組み合わされる。システム全体では462psという強大なパワーなのだ。燃費より走りを志向したハイブリッドである。だから、山道でのドライブがべらぼうに楽しい。2tの巨体を強烈に加速し、コーナーでは路面に吸い付くような安定感を見せる。全長が5049mm、ホイールベースが2950mmもあると感じさせない剛性感が、スポーティーな走りの根底にある。
アグレッシブなレスポンスのACC
ステアリングホイールにモード切り替えスイッチがあり、「E-POWER」を選択するとモーターのみで走行することができる。このモードを選べばたしかに静かだが、パワーは限定的だ。136psのモーターだけで走らなければならないのだから仕方がない。約140km/hまでのスピードで最大50kmまで走れるという触れ込みではあるものの、もちろんそれはすべての好条件がそろった場合のこと。100km/hでも巡航は可能だが、加速しようとすればエンジンがかかってしまう。
通常は「HYBRID AUTO」で走行する。効率的なパワー配分をシステムが自動で選んでくれるモードだ。「SPORT」「SPORT PLUS」というモードもあるが、いきなりエンジン音が勇ましくなって車内では会話が難しくなる。街なかや高速道路では「HYBRID AUTO」で走るのがベストだろう。
アダプティブクルーズコントロール(ACC)まで装備されていたことには驚いた。ポルシェなのに、イージードライブが可能なのだ。とはいえ、設定にはやはりブランドの姿勢が表れる。これまでに経験したことのないような素早いレスポンスなのだ。前車がいなくなると間髪をいれずスムーズに加速する。作動がトロくてイライラする設定のクルマもあるが、ポルシェのACCはアグレッシブさが心地よい。
ルーフ後端にはアダプティブスポイラーが備えられていて、走行条件に応じて自動的に角度を調節する。パフォーマンスポジションという最大限の効果を発揮する角度に移行して走行安定性を高めるというが、作動するのは170km/hを超えてから。日本で使うには、設定速度が90km/hに下がる「SPORT」か「SPORT PLUS」モードを選ぶしかない。
近所使いならばガソリン不要
ボディーの右側に給油口があり、ちょうど反対側には充電ソケットが備えられている。CHAdeMO規格には対応していないので、出先で充電することはあまりなさそうだ。自宅で夜間に充電すれば、PHVの恩恵を最大限に受けることができる。満充電には15時間ほどかかるようだが、近場の通勤や買い物用途で使うのならほとんどガソリンを消費しないはずだ。
ただし、近所使いするにはボディーが大きい。コインパーキングなどでは駐車に苦労するかもしれない。低速走行もあまり得意ではないようだ。発進時に少しでもアクセルを強く踏みすぎるとモーターで強く押され、その後でエンジンのパワーが加わるというタイムラグがある。エンジンとモーターの連携がスムーズではなく、慣れないとギクシャクしてしまうのだ。PHVのメリットを生かす使い方は向いておらず、ハイパワーで快適なグランツーリスモとして使うほうが適しているように思える。
まっしぐらに環境性能を追求したプリウスPHVのようなクルマとはまったく思想が違うのだ。これだけの大きなボディーなのに後席に十分な居住空間が確保されていないパッケージングは、トヨタなら企画段階でボツにされるだろう。常に走りを優先する哲学を持っているブランドであることが知られているからこそ許される、リッチでゴージャスなモデルなのだ。
20年前の自分に「5人乗りのシューティングブレークでプラグインハイブリッドのポルシェに乗ることになるよ。しかも燃費はリッター約10kmで、車速を設定しておけばアクセルを踏むこともなく、車線を勝手に読んで自動的にステアリング操作をしてくれる」と言っても、絶対に信じないだろう。そういうモデルにもちゃんと“らしさ”をまぶしてくるところが、ポルシェの強みである。
(文=鈴木真人/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラ4 Eハイブリッド スポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5049×1937×1428mm
ホイールベース:2950mm
車重:2265kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:330ps(243kW)/5250-6500rpm
エンジン最大トルク:450Nm(45.9kgm)/1750-5000rpm
モーター最高出力:136ps(100kW)
モーター最大トルク:400Nm(40.8kgm)
システム最高出力:462ps(340kW)
システム最大トルク:700Nm(71.4kgm)
タイヤ:(前)275/40ZR20 106Y/(後)315/35ZR20 110Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:2.5リッター/100km(40.0km/リッター、ハイブリッド燃料消費率、NEDC複合モード)
価格:1521万3000円/テスト車=1851万円
オプション装備:ボディーカラー<サファイアブルー メタリック>(0円)/インテリアカラー<ブラック/ルクソールベージュ>(77万6000円)/ポルシェクレストホイールセンターキャップ(3万円)/パノラミックルーフシステム(0円)/フロアマット(3万3000円)/シートベンチレーション<前席>(19万3000円)/LEDマトリクスヘッドライト<PDLSプラスを含む>(19万3000円)/20インチ パナメーラデザインホイール(35万9000円)/アンスラサイトパーチ インテリアパッケージ(14万1000円)/サラウンドビュー付きパークアシスト(13万4000円)/ボーズ サラウンドサウンドシステム(25万8000円)/ペインテッドキーとレザーキーポーチ(6万2000円)/車載ケーブル7.5m(0円)/メモリー機能付き電動シート<前席>(27万2000円)/ストレージパッケージ(0円)/断熱遮音プライバシーガラス(34万2000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:5147km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:551.0km
使用燃料:54.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)
参考電力消費率:5.7km/kWh(車載計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。