弱点に見る“N-VAN”の真実

N-VANのライバル車は、先に述べた軽商用バンのスズキ・エブリイとダイハツ・ハイゼット カーゴ、そしてそのOEM車になる。

ライバル車との最も大きな相違点は、N-VANがエンジンを前側に搭載して前輪駆動としたのに対し、エブリイやハイゼット カーゴは、エンジンを前席の下に搭載した後輪駆動車になることだ。

N-VANは前輪駆動だから床が低く、荷物の収納がしやすい。リアゲート部分の荷室床面の地上高は525mmだから、ライバル2車に比べて100mm以上低い。床が低ければ、荷室高にも余裕が生じる。また低重心になり、走行安定性と乗り心地にも優れた効果をもたらす。

逆にライバル2車が優れているのは、まず荷室長が長いことだ。エンジンを前席の下に搭載したから、ボンネットに相当する部分が短く、カタログ記載の荷室長(最大値)はエブリイが1910mm、ハイゼット カーゴは1860mmになる。ホンダ・アクティバンも、エンジンを荷室の下に搭載して1725mmを確保していた。それがN-VANでは1510mmになってしまう。

商用車にとっては前輪駆動も不利な要素になり得る。荷物を積載した状態で坂道を発進する時は、車両全体の荷重が後輪に偏るからだ。後輪駆動であれば駆動力の伝達効率を高められるが、前輪駆動では、特に積雪時の坂道発進が不安定になりやすい。

しかしこの欠点にこそ、N-VANの真実がある。他社とOEM関係を結ばないホンダは、もはやアクティバンのような独自のプラットフォームを使う軽商用バンを自社開発できない。そこでN-BOXと共通化したが、荷室長はライバル車に比べて300~400mmも短く、前輪駆動の採用という不利も背負わされてしまう。この問題は回避のしようがない。

そこでライバル2車では得られない特徴として、左側のドアをピラーレス構造にして開口幅をワイドに広げ、助手席も小さく畳めるようにした。このあたりは先に書いたとおりである。

特に助手席を格納した時は、細長い部分ではあるが、荷室長が2635mmに達する。荷物の種類によっては、ライバル2車よりも収納しやすい。また荷室長ではなく「荷室面積」という見方をすれば、さほど不利にならない。

前輪駆動の不利については、先に述べたように強化した4WDで対応した。しかも4WD車の価格をFF車と比べて10万9080円の上乗せに抑えたから、ほかの車種の13~14万円アップと比べて安い(N-BOXでも13万0680円の上乗せだ)。「駆動力の伝達効率に不安を感じるユーザーは、渾身(こんしん)の開発を行った買い得な4WDを選んでほしい」というメッセージが込められている。

このようにN-VANは、N-BOXをベースに開発されたことの不利を工夫して、メリットに変えている。N-BOXと同様、すごみを感じさせるクルマ造りだ。

緊急自動ブレーキなどの安全装備も充実しており、N-BOXと同じく「ホンダセンシング」をすべてのグレードに標準装備した。ハイゼット カーゴの「スマートアシストIII」も歩行者を検知して緊急自動ブレーキを作動できるが、N-VANのCVT仕様には、車間距離を自動制御できる運転支援機能のアダプティブクルーズコントロールが搭載される。エブリイの緊急自動ブレーキは歩行者を検知できず、作動速度の上限も30km/hと低い。

価格の一例を挙げると、「N-VAN L・Honda SENSING」が134万1360円。これに相当するライバル車は、「スズキ・エブリイ ジョイン」のレーダーブレーキサポート装着車が123万9840円、「ダイハツ・ハイゼット カーゴ クルーズ“SAIII”」が124万2000円といったところ。N-VANの価格は少し高いが、それに見合うだけの機能を備えている。

このように軽自動車は、乗用車、商用車ともに、ライバル車と競いながら進化を重ねていく。小型/普通車が軽自動車に追い付くのは、もはや容易なことではないだろう。

(文=渡辺陽一郎/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、スズキ、webCG/編集=藤沢 勝)

「ホンダN-VAN」の実質的な先代モデルである「アクティバン」。
「ホンダN-VAN」の実質的な先代モデルである「アクティバン」。拡大
「N-VAN」の後席と助手席をダイブダウンさせたところ。荷室として使える長さは2635mmに達する。
「N-VAN」の後席と助手席をダイブダウンさせたところ。荷室として使える長さは2635mmに達する。拡大
助手席側をピラーレス構造とした点も「N-VAN」の大きな武器だ。開口部がリアゲートよりも広くなるため荷物の積み下ろしが楽になるほか、路肩などに止めた場合には歩道側で安全に作業ができる。
助手席側をピラーレス構造とした点も「N-VAN」の大きな武器だ。開口部がリアゲートよりも広くなるため荷物の積み下ろしが楽になるほか、路肩などに止めた場合には歩道側で安全に作業ができる。拡大
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