パリでダンスしたジェミニ

戦前にバスやトラックなどの生産でトップ企業となっていたいすゞ自動車は、戦後になると「ヒルマン・ミンクス」のライセンス生産で乗用車部門に進出する。その経験をもとに、「ベレル」「ベレット」という独自開発のモデルを製造するようになった。ベレルは失敗に終わったが、ベレットはスポーティーなハンドリングで高い評価を受ける。それでも乗用車販売のノウハウに乏しいいすゞは1960年代に経営が悪化し、1971年にアメリカのゼネラルモーターズ(GM)と資本提携することになった。

GMでは「グローバルカー構想」を推進しており、その中で生まれたのが「ジェミニ」だった。「オペル・カデット」をベースとし、世界中でそれぞれの国に合わせたモデルを製造する取り組みである。「シボレー・シェベット」や「ポンティアック1000」は姉妹車にあたる。

ジェミニは1985年にFF化され、2代目となった。こちらはいすゞが独自に開発したモデルである。基本デザインは「117クーペ」や「ピアッツァ」も手がけたジョルジェット・ジウジアーロが担当し、都会的な印象を与える洗練されたスタイルとなった。1.5リッターのガソリンエンジンのほかに、お得意のディーゼルエンジンも用意された。

キビキビとしたハンドリングが好評で、売れ行きも順調に伸びていく。クルマの出来の良さ以外にも、ヒットの要因があった。「街の遊撃手」というキャッチコピーが使われたCMが、強い印象を残したのである。パリにクルマを持ち込み、凱旋(がいせん)門やエッフェル塔を背景にして撮影を行った。ワルツやシャンソンが流れる中、ジェミニがダンスを踊るように街を走る。息を合わせて流れるようにランデブー走行する様子は優雅に見えたが、華麗な動きの裏にはプロのドライバーチームの緻密な運転技術があった。

最初の2台バージョンから徐々に数が増えて、20台以上がエレガントな乱舞を披露するCMもあった。地下鉄の駅から階段を駆け上がるシーンも撮影されている。CMのコンセプトには、ハンドリング重視、ヨーロッパ志向というジェミニのキャラクターが強く表れていた。ドイツのイルムシャーやイギリスのロータスと組み、スポーティーなチューニングが施された特別モデルも販売されている。

いすゞは2002年に乗用車部門から撤退したが、ジェミニのCMは今も語り継がれている傑作だ。初代シビック、赤いファミリアも、一つの時代を作ったクルマとして今も多くの人が鮮明に記憶している。突然現れて華麗な遊撃戦を繰り広げたクルマたちは、風景を一変させてしまうような衝撃をもたらしたのだ。

(文=webCG/イラスト=日野浦 剛/写真=いすゞ自動車、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ)

高い運動性能によって人気を博した「いすゞ・ベレット」。写真は“ベレG”の名で親しまれ、日本車として初めて車名に“GT”の文字を冠した「ベレット1600GT」。
高い運動性能によって人気を博した「いすゞ・ベレット」。写真は“ベレG”の名で親しまれ、日本車として初めて車名に“GT”の文字を冠した「ベレット1600GT」。拡大
1974年に登場した初代「ジェミニ」は、「オペル・カデット」の姉妹車だった。
1974年に登場した初代「ジェミニ」は、「オペル・カデット」の姉妹車だった。拡大
1985年に登場した2代目「いすゞ・ジェミニ」。初代とは異なり、いすゞ独自のコンパクトカーとしてデビューした。
1985年に登場した2代目「いすゞ・ジェミニ」。初代とは異なり、いすゞ独自のコンパクトカーとしてデビューした。拡大
2代目「ジェミニ」のインストゥルメントパネルまわり。写真は「1500 3ドアHBC/C」のもの。
2代目「ジェミニ」のインストゥルメントパネルまわり。写真は「1500 3ドアHBC/C」のもの。拡大
“シグナスII”こと4EC1型1.5リッターディーゼルターボエンジン。
“シグナスII”こと4EC1型1.5リッターディーゼルターボエンジン。拡大
2代目「ジェミニ」には、ヨーロッパを想起させるさまざまなモデルがラインナップされた。写真は上から、「イルムシャー 4ドアセダン」「ユーロルーフ2」「ZZハンドリングbyロータス 3ドア」。
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