「執務室」と「私生活」は……?

モンテゼーモロの名が出たところで記せば、頻繁に家族で女性週刊誌のグラビアを飾ってきたモンテゼーモロとは対象的に、マルキオンネの私生活は、あまり知られてこなかった。その理由は、本人が私生活を公開するのを好まなかったことにある。

これまで最もよくまとめられた、かつ詳しい手がかりは、2008年にイタリアのリーベロ出版から刊行されたミケーラ・ラヴァリコ著『マルキオンネの謎』だった。同著によると、マルキオンネはクラシック音楽、特にバッハを好み、執務室にオーディオセットを持ち込んで、大音量でかけながら仕事をしていたという。またヘビースモーカーであり、モンテゼーモロはそれをかなり嫌っていたと記されている。そうした記述から、マルキオンネの真の死因は肺がんだったのではないかと推測するのは、筆者だけだろうか。

モーターショーでの振る舞いもモンテゼーモロと対照的だった。筆者が質問しなくても家族について話し、撮影にも快く応じるモンテゼーモロに対し、マルキオンネは人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。ゆえに、筆者自身彼と接したのは囲み取材だけだった。プライベートの話を聞く雰囲気にもっていくことは、到底不可能だった。

これまで伝えられてきた断片的情報がパズルのごとく連なり、ひとつの像が浮かんできたのは、今回の彼の死によってだった。マルキオンネの住まいはスイスにあり、離婚した妻オルランディーナとの間に2人の息子アレッシオ=ジャコモ、ジョナサン=テイラーがいる。2012年からはFCAの広報部門に勤務するイタリア人マヌエラ・バッテッザートと交際関係にあった。

トレードマークのセーターに関していえば、米国のオバマ前大統領やトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、さらには現ローマ教皇に会うときも、セーター姿で通した。「自分は服装でなく業績で評価されるべきだ」という信念があったとする見方もできるが、ついぞそうした言葉は本人から聞かれなかった。その一方で、「ネクタイを締め、窮屈な格好で仕事をしている人間が信じられない」という語録は残っている。また、ある記者が生前に聞いたところとして、セーターはメールオーダーでまとめ買いしていることが判明している。

「他社(との提携)は必要ない。自社のみで存続する」と発言した2010年。写真中央がセルジオ・マルオンネ。
「他社(との提携)は必要ない。自社のみで存続する」と発言した2010年。写真中央がセルジオ・マルオンネ。拡大
2006年のジュネーブショーで。スイスのコーチビルダーであるフランコ・スバッロ(写真中央)のブースを訪問したマルキオンネ(同右)。この頃は、まだダブルのスーツ姿である。
2006年のジュネーブショーで。スイスのコーチビルダーであるフランコ・スバッロ(写真中央)のブースを訪問したマルキオンネ(同右)。この頃は、まだダブルのスーツ姿である。拡大
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