モーガン4/4(FR/5MT)
興味はつきない 2018.08.09 試乗記 戦前のクルマづくりを今日に伝える英モーガンのスポーツカー「4/4」。1936年に誕生した“新車で買えるクラシックカー”は、のぞき込んでも乗ってみても、現代のクルマとは似るところがなく、付き合うほどに発見のある興味のつきない一台だった。ハンドブレーキに時代を感じる
雨が降っているわけでもないのに傘をさすのはヘンなので――というようなココロで幌(ほろ)を開けた。畳んだ。幌=日傘という考えかたもアリかもしれないけれど、いずれにせよ、普通、クルマを運転していて傘はあまりささない。で一方、サイドスクリーンはつけたまま。気候や気象の条件がよっぽどアレでないかぎり、そのくらいがちょうどいいのではないか。
すごく久しぶりのモーガン。こないだ……といっても25年ぐらい前だからずいぶん昔のことですが、前回運転したのも同じ4/4。なにしろエンジンが比較的かもっとイマドキの物件なので、運転するのは易しい。試乗記にはきっとそのようなことを書くんだろうと思いながら、イキナリ2度ほど坂道発進→エンスト(3度だったかもしれない)。ひとつにはこのクルマ、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏面の段差がすごくデカい(さらにアクセルペダルの作動がシブめ)。そして、クラッチ滑らせまくりの発進はキライなワタシ。またいまひとつには、ハンドブレーキのレバーの扱いかたが(今回乗ってすぐのときは)よくワカランものだった。でも、ああそう、そうでした。思いだせば、わかってしまえば、どうということはない。はっはっは。
ドライビングポジションは、ペダルが遠めでハンドル近め。それにしても、1速がミョーにハヤげ(レシオの数字でいうと、小さめっぽい)だなあ……と思ったら。編集のホッタ君いわく「マツダの5段っす」。あ、「ロードスター」用ね。あーナルホド。チェンジレバーの操作感がゴギゴキっぽいのもおそらくそうだからで、ただしレバーのレバー比の関係か、扱いやすさは多少かもうちょっとフツー。つまり、ベター。
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フォード・シグマは実用エンジンのお手本
なにしろモーガンなので、操作系の手応え足応えは全部ナマ……と書こうと思っていたら、あら? ブレーキは真空倍力装置がついてるっぽい感触(あとでノゾいたら、ついてました)。でもまあ、ナマ度は高め。ホントにナマの、つまり倍力装置がついてないブレーキ、いまの人が初めて体験したら「あー止まらない!! コワれてるー!!」になるでしょう。
あとそう、スロットル関係。考えてみれば、いまどきそうなるのはむしろ順当なことなのだけど、どうやら電子制御。ほっほー!! もしかして間違ってたらゴメンナサイ。でも、ちゃんと観察したんだよ。エンジンフードを開けて、当該物件があるあたりを何度も。懐中電灯で照らしながら。運転しているだけだと、電制クサさはほぼゼロだった。ふむ。で、運転席の足元を照らす。こ、このペダルが電子制御スロットルのペダルなのか!?
なにしろクルマが軽い(車検証記載値はフロント軸重350kg+リア軸重480kg=830kgで、つまりフロントエンジン車なのに後ろのほうが重たい)から、というのはもちろんあるとしても、このエンジン、低回転からすごくチカラがある。実用エンジンの特性のお手本。そういっても全然間違いではない感じ。味が濃い。味つけが濃いというよりは、モトの味が。ああ、イイなあ。イギリスだ。モーガンだ。ていうか、クルマだー!! なお、この1.6リッター4気筒エンジンはフォード物件。
ユニークな操舵感、ユニークなフロントサス
ハンドルの手応えはナマといえばいかにもナマそのもので、ただし重ステ一般のそれからするとけっこう独特のものがある。
ひとつには、真ん中およびそこから動かし始めのところの手応えがグッとある。ナマステならではの、いわゆるN感(NはニュートラルのN)。真ん中あたりのブラブラ感。それが、簡単にいうと、ない。理由ないし原因はちゃんとあって、このクルマのフロントサスペンションがスライディングピラー式だから、というのがそれにあたる。
スライディングピラー式。それがどんな式かを説明するにあたっては「オートバイのフロントフォークみたいな……」というのが一般的なところであろうけど、しかしオートバイのフロントと違ってモーガンのは片持ち式である。オートバイのフロントにも片持ち式の採用例はあったかもしれないけれど(MTBにはありましたね、キャノンデールの「レフティ」とか)、その場合、転舵軸は正面視でタイヤの真ん中を真っすぐ垂直に通っていたに違いない。モーガンは違う。四輪車だと、そうはならない。少なくとも、よっぽど非現実で特殊な設計でもしないかぎりは。
クルマの下に潜ってそのあたりをジッと眺める。転舵軸……はわかりやすい。ほかでもない、スライディングピラーのピラーがイコール転舵軸だから(ちなみに、ネットでいろいろ調べてみたらKPI=キングピン傾角はどうやら2°)。その転舵軸を下のほうへテンテンテンと延長していくと、地面と交わるのはタイヤの接地面の内側ギリかちょっと離れたあたり。タイヤの幅はサイズでいうと165だから、単純に2で割ると80mmちょい。要は、いわゆるスクラブオフセットがかなりデカそう。つまり、タイヤの接地中心から内側へかなり離れたところを転舵軸が通っている。ハンドル真ん中付近の手応えがグッとあることなどは、これで説明がつく。
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普通のクルマと逆なんですけど……
さらにジッと眺める。ステアリングのギアボックスはラック&ピニオン式(前引き)で、これはたぶん、長い歴史の途中のどこかで変更されたもの。ピットマンアームを使ったタイプのステアリングギアボックス(例えばリサーキュレーティングボール式もそのうちのひとつ)がついている昔のモーガンの画像がネットに出ていた。おもしろいことに、タイロッドの車体側というかラック側の取り付け点が、ラックケースの真ん中にある。センターテイクオフのタイプ。あーこれ、スバル製「サンバー」と同じじゃん……という話はどうでもいいですね。
これはどういうことかというと、ステアリングのタイロッドがすごく長い。なぜすごく長いかというと、フツーに考えて、バンプステア対策。サスペンションが縮むのにともなって発生するタイヤのトー変化の影響をできるだけ控えめにしたい設計者のココロが見える(スライディングピラー式+ラック&ピニオン式だと必然的にこうするしかない設計ともいえる)。で、そのタイロッド、1G状態で上反角がついている。ということはフツーに考えてバンプ→トーイン。いまのクルマのフロントのバンプステア特性はまず例外なくバンプ→トーアウトなので、バンプ→トーインになってるとすると、やっぱモーガン、変わっている。
タイロッドのラック側取り付け点にゴムブッシュが入っているのは、これもあまり見たことがない。少なくとも、ワタシは初めて(だと思う)。なお、フォーミュラ系とかの純レーシングカーの設計ではバンプステアはゼロというのがお約束だそうです(そりゃそうでしょう)。
新車で乗れる“プレモダン”
運転するものとして、いまのクルマはおかしい。おかしくなる前の昔のクルマ、サーボアシスト等のシカケが、あまりかロクにかついてないクルマ、そういうものとして、例えばスバルの「ff-1 1300G」を運転したことがワタシはある。あれはたしかにすごかった。舵感といい直進性といいライントレース性といい、いろいろ素晴らしくモダンだった(間違いなく、日本が世界に誇れる昭和の名車です)。比べると、いまの日本車のそのへんの感じはちょっとした暗黒時代。
アタリマエだけど、モーガン4/4の基本設計の年次はそのスバル(「スバル1000」は1966年~)なんかよりもさらにずっと古い。すなわち戦前、1930年代モノ……としても特に新しくはなかったはずで、クルマとしては、だからプレモダンの物件といって間違いではないと思う。そのプレモダン感が、運転して、手応えとしてリアルにある。うおお。
ことによったら、あるいはよらなくても、とっくの昔に博物館の展示物と化していても全然おかしくない。そんなクルマが、2018年のいま、まだバリバリ新車で買えてしまう。バリバリ乗れる。控えめにいっても、それはすごくすごいことだといえる。例えばの話、約80年前ほぼそのままの道具(しかも新品)を買って使って、いま野球をプレイできるかというと……。だからモーガン4/4、リアルに奇跡じゃん!! 生産開始が1936年ということは、昭和でいうと11年。二・二六事件のあった年。十二試艦戦→零式艦上戦闘機(いわゆるゼロ戦ですね)が搭載エンジン等にアップデートを受けながら、いまでも現役のプロダクションモデルでありつづけている、ともいえるかもしれない。
ボディー全体がサスペンション
乗り心地は、イイのかよくないのか、ちょっとよくわからない。そこそこいろんな種類の舗装路面を走ったつもりだけれど、例えばダダン!! 等のショックで背骨がギシッときしむようなキツくて痛い体験は今回、ほぼなかった。シビアにいうと、0.5回ぐらい(アクセルペダルの操作感にシブさがあることが必要な理由がそれでわかった)。突き上げ等の衝撃入力を和らげるためにサスペンションのアームやリンクの関節部分にゴムブッシュを使うのがいまのクルマではごくフツーのことで、でもモーガンはそういうふうにはあまり、またはロクに、なっていない。なのに……という。そういうことからすると、意外なほどに快適だった。
その要因としてひとつありそうなのは、フレーム関係。車体がウニウニたわんでショックを逃がしたりしている印象がある。
この4/4でフレームといえる部分は大きく2つあって、ひとつはシャシー。主にラダーフレームからなる鉄骨部分。もうひとつは、ボディーワークのフレームであるところの木骨。スチールとウッドのハイブリッドなコンストラクションで、その全体が少なからずサスペンションになっている感じ。逆にいうと、狭義のサスペンションのほうはこのクルマの場合、あまりサスペンションの仕事をしていないっぽくもある。あとそう、木骨ならではと思われる独特のたわみ感というか“いなし感”。反発がキツくない。ギスギスしていない。リムが木製の車輪がついた自転車(クロームモリブデン鋼のフレームの、いわゆるロードレーサー)に乗ったことがあるけれど、乗り心地はすごくイイ。優しい。キンキンカンカンしていない。今回のモーガンの乗り心地にも、ちょっとそれに通じるものがあった。
好事家の心を奪う匂い
今回ワタシは1泊2日でクルマを借りた。で、なにしろモーガンなので、夜はウチに泊まってもらった。
車庫に入れてシャッターを閉めたら、まあ、なんということでしょう!? 車庫じゅうが、モーガンの匂いで満たされたのでした。フレーバーのモトは、ひとつはたぶん、レザー関係。それと、もっと主役っぽいのはたぶん、リアコンパートメントの床になっている板(それじたいはホントにただの木の板)。防腐剤かなにかを染みこませてあるのか、間近でクンクンするとアタマがクラクラしてくる。ワタシの場合、ガキの頃はLPGタクシーの排ガスや道路舗装工事真っ最中のアスファルトのフレーバーにグッときていたクチなので、車庫内に満ちたモーガンの匂いにもグッときた。ニオイ関係では、もしかしてスライディングピラーまわりに塗りたくられたグリスなんかも効いていたかもしれない。
……というのもさることながら、すでに書いたように、4/4の下まわりとかの気になるところを飽きるまで眺めることができた。コンクリの床にゴロンと寝っころがって。人目があるところではそういうの、あまりおおっぴらにはやってられない。
で、シャシー。ラダーフレームとはいっても、比較的見慣れたトラックや「ランクル」や「ジムニー」なんかのとはだいぶ様子が違った。そのスジではZ型鋼と呼ぶみたいだけれど、要は、フレームのメインの部材の断面が“卍”の片割れみたいなカタチになっている。存在感的にもわりとささやかで、少々の入力にはビクともしない……ようなものにはあまり見えなかった。むしろ、縦方向の荷重(もっというと、静荷重?)を受け止め支える以外のことはあんまり頑張りすぎないようにしてある感じ。で、やっぱり独特。変わってる。いまのクルマ基準でいうと、フツーではない。
今日的な基準では評価できない
ガッチリ高剛性の車体が動質の基本。土台。そういうモダンな考えかたからすると、モーガン4/4は実際の乗り心地その他もまさに異次元のものである。昔のまんま度が極めて高い設計のクルマではあるけれど、昔すぎて、今のクルマのあるべき姿を考えたりするにあたって参考やお手本になるようなものではない。で、それは例えば、いまのヒコーキの機構設計その他の直接的なルーツが「ライトフライヤー号」ではないというのと似ているかもしれない。「あれは航空機というよりはむしろ人が乗って操縦する凧(たこ)に近い」みたいな主張をガブリエル・ヴォワザンがしていたという話を本で読んだことがある。
あとそう、今回借りたモーガンはワイヤースポークのホイールを履いていた。測ったわけではないけれど、たぶんあまり軽量&高剛性ではないでしょう。モダンなアロイホイールを履かせたら、乗った感じはどう変わるか。ゼヒ試してみたいけれど、いつかモーガンを買える日がくるまで、それは楽しみにとっておこうか。
こういうクルマにパッと乗って走りだして「あ、これならぜーんぜんイケちゃうじゃん!!」と思うかそうでないかは、これはたぶん、人による。例えばワタシはというと、幸か不幸か、たぶん「イケちゃうじゃん!!」のほう。で実際、高速道路や峠のクネクネ道でもほとんど喜々として乗りまわした。というかモーガン4/4、運転操作に特殊なワザや腕力が要るクルマでは別にない。動力性能やタイヤのグリップに関しても、いまの路上で運用して困るとか足りないとかはなにもない。じゃあこれは乗りやすいクルマかというと、それはちょっと。乗りにくくてツラいばかりのクルマではないけれど、乗りやすくて快適なだけというわけでもない。
見れば見るほど発見があるクルマ
モーガン4/4の乗りやすさや扱いやすさに関して個性の強いところをひとつあげるとしたら、それはハンドルの手応え関係。具体的には、回していくにつれてフッとカルくなったりグッと重たくなったりまたフッと……が繰り返される。トルク変動。等速性がキープされていない。前回こういう感じを体験したのは、たしかTVRのなにかを運転したとき。あるいは、フェラーリの「308GT4」かなにかを。
ということでエンジンフードを開けてクルマのそのへんをノゾいてみると、コラムシャフト→インターミディエイトシャフトときて、ピニオンシャフトとのジョイントのところでムリめな角度がつけられているように見える。あ、ここかな。どうしてこうなったか。ステアリングのギアボックスを途中でラック&ピニオン式に変更したからだと考えると、ツジツマが合いそうである。ピットマンアームを使うタイプの操舵系だったら、ハンドルからステアリングのギアボックスまで、真っすぐシャフトが伸びていた。回していくにつれてハンドルの手応えがカルくなったり重たくなったりはプレモダン設計ゆえのアジのうちと考えるべきかとも思ったけれど、ホントはそうではないかもしれない。むしろ逆に、新しくしたからそうなった?
という感じで、うーんモーガン、いろいろと興味はつきない。
(文=森 慶太/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
モーガン4/4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1630×1220mm
ホイールベース:2490mm
車重:795kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:112ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:132Nm(13.4kgm)/6000rpm
タイヤ:(前)165/80R15 87T/(後)165/80R15 87T(コンチネンタル・コンタクト)
燃費:--km/リッター
価格:766万8000円/テスト車=863万5890円
オプション装備:5×15ステンレスポリッシュドワイヤーホイール<4本>+スペアホイール<1本>(32万4000円)/フルサイズバンパー<フロント&リア>(25万9200円)/ブラックトノカバー<PVC>(5万4000円)/クラシック9スタッドフード(12万9600円)/特別ダッシュボード<Walnut>(12万9600円) ※以下、販売店オプション Moto Litaステアリングホイール<14インチウッドスロット>(5万6120円)/ミラーインテリアステンレス(1万5370円)
テスト車の年式:2018年型
テスト車の走行距離:1804km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:231.0km
使用燃料:15.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.9km/リッター(満タン法)
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