フィットで飲みに出掛けた結末は……

限界を自認したマーロは、ついに夜中のベビーシッターを雇うことに同意する。やってきたのは、へそ出しチビTを着たタリー(マッケンジー・デイヴィス)。一見してとても信頼できそうにない今どき女子だが、意を決してまかせてみると完璧な仕事ぶりだった。赤ん坊がおなかを減らしていることに気づくとマーロを起こして授乳させ、すぐに眠りにつかせて彼女の睡眠を妨げない。朝になると1階のリビングルームはきれいに掃除され、8年分のホコリが消えていた。

マーロは少しずつ快活さを取り戻していく。体を引き締めるため、朝のジョギングまで始めた。タリーは家事の負担を減らしてくれただけでなく、精神的な安定を与えてくれる。マーロがテレビでジゴロのリアリティーショーを観て現実逃避していることもおおらかに受け止め、自分をさげすむことはないと諭す。グチも優しく聞いてくれて、すべてを肯定してくれているように感じたのだ。

年齢の離れた2人だが、次第に女子的友情を育んでいく。2人で深夜にブルックリンへ遊びに行こうと盛り上がったのも自然なことだ。BGMはシンディ・ローパー。ノリノリである。ただ、フィットに乗って出掛けたのだから、散々飲んで踊った後も運転して帰らなければならない。飲んだら乗るな、乗るなら飲むなという戒めはアメリカでも同じである。カタストロフィーが待ち受けているのは当然のことだ。

うれしいことに、ただの悲劇的結末ではない。この映画には、秘密がある。柳下毅一郎の言う“副音声映画(登場人物が自分の気持ちや状況をすべてセリフで説明する超親切設計の作品)”ばかり見慣れている人には理解できないかもしれない仕掛けが隠されているのだ。そのステキなトリックを話したくて仕方ないのだが、それはできない。大ヒット中の『カメラを止めるな!』と同様、からくりを明かしてしまっては映画を観る楽しみが半減してしまう。いい映画の悩ましい共通点である。

(文=鈴木真人)

(c) 2017 TULLY PRODUCTIONS.LLC.ALL RIGHTS RESERVED.
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『タリーと私の秘密の時間』
2018年8月17日(金) TOHOシネマズ シャンテほか、全国ロードショー
『タリーと私の秘密の時間』
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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