マインド変化の背景

FCAが国外移転を進めるのには、理由がある。ユーロスタット(欧州統計局)の2016年発表によると、イタリアにおける1時間あたりの労働コストは27.8ユーロ、いっぽうでポーランドのそれは3分の1以下の8.6ユーロである。プレミアムブランドであるアルファ・ロメオ、ジープ、マセラティをイタリアに残し、フィアットの生産拠点を移転したくなるのは明白だ。

しかしながら、イタリアの一般ユーザーはというと、フィアットの“国外移転”をそれほど気にしていないのも事実である。ましてやそれを理由にした不買運動なども起きていない。

ボクが知るディーラー関係者も、目下の売れ筋車種である現行「ティーポ」について、それがトルコ工場製であることを「気にする顧客はいない」と証言する。

背景にあるのは、間違いなくフィアット500の成功であろう。それがポーランド工場製であることを気にする人に、筆者は会ったことはない。

知人のひとりも「もはや誰もが、本社所在地とは別の国でつくられていることを知っている」、よって生産国は気にしないことを示唆した。ちなみに彼は60代。保守的と思われる年代でさえ、もはやこうした感覚をもつ。

以前にも記したが、それを後押ししたのは、アジアの生産拠点に対する既成概念を製品デザインと高度な品質管理によって乗り越えたApple、とりわけ「iPhone」の普及があろう。

それに追従するように、かつてメイド・イン・イタリーを誇らしげにうたったイタリアのファッションブランドも国外製を巧みに取り入れるようになってきた。フットウエアで有名な「GEOX(ジェオックス)」もセルビアに同国政府との合弁工場を建設し、1300人を雇用する計画だ。だからといって、同ブランドのイメージが低下することは考えにくい。

社会を観察すると、さらにわかってくる。

イタリア統計局によると、2017年1月時点で外国人居住者の数は504万人。全人口の8.3%を占める。

参考までにフェラーリでおなじみのモデナやマラネッロがあるエミリア=ロマーニャ州は、国内で最も外国人比率が高く11.9%にのぼる。ボクが住む中部のトスカーナ州も、10.7%と高い。いずれも10人に1人以上が外国人なのである。

東ヨーロッパに対するイメージも変わった。例えばボクがイタリアに住み始めた20年前、ポーランドの人といえば故郷に家族を残して期間労働者としてやってくる高齢者家庭向けホームヘルパーが多かったものだ。いっぽう今日では、イタリアの大学を卒業したり、店をもったりして、イタリア社会に溶け込んでいるポーランドの人をたびたび見かける。

ポーランドに関してついでにいえば、カトリック信者が71%を数えるイタリアで絶大な人気があった元ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世(在位1978-2005年)がポーランド出身であったことも背景にあろう。

このように社会を構成する国籍がボーダーレス化するなか、ネイティブなイタリア人ユーザーのマインドも変わるのは当然であるといえる。

「フィアット・パンダ シティークロス」。現行型は、かつて「アルファ・ロメオ・アルファスッド」の工場として建設されたポミリアーノ・ダルコ工場で生産されている。
「フィアット・パンダ シティークロス」。現行型は、かつて「アルファ・ロメオ・アルファスッド」の工場として建設されたポミリアーノ・ダルコ工場で生産されている。拡大
「フィアット・ドブロ」。トルコの合弁工場トファス製。
「フィアット・ドブロ」。トルコの合弁工場トファス製。拡大
「ドブロ」と同じトルコ製の「フィアット・クーボ」。
「ドブロ」と同じトルコ製の「フィアット・クーボ」。拡大
セルビアで生産されている「フィアット500L」。
セルビアで生産されている「フィアット500L」。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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