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BMW X2 xDrive20i MスポーツX(4WD/8AT)

物理法則は正直だ 2018.09.26 試乗記 佐野 弘宗 “アンフォロー”をテーマに、ブランドの既存のルールにとらわれない独特な立ち位置でデビューした「BMW X2」。しかし、いくら“鬼っ子”として振る舞っても、出自はなかなか隠せないもの。試乗を通じて感じたのは、あのクルマとの強い類似性だった。

メインターゲットは若者

2000年の初代「X5」でスタートした「X」シリーズはもともとスキマ商品でしかなかったが、年を追うごとに増殖。今回のX2によって唯一の空席だった「2」も埋められて、Xシリーズはいよいよ“スキマのないスキマ商品?”となった。ただ、これだけスキマがなくなってくると、他社に対してだけでなく、自社内での差別化も必要となってくる。

X2もBMWのお約束どおり、骨格自体はひとつ下の奇数モデル(=「X1」)と共用するから、Xシリーズでは(X1とならんで)もっとも小さく手頃であり、兄貴分より客層が若くなるのが最初から必然である。しかし、実際のX2は、それ以上に若者を連呼する。

これが若者向けである根拠……というか覚悟として、X2がかかげる旗印が“デザインのルール破り”である。鼻先のキドニーグリルが下広がりの台形となるのはほぼ史上初であり、Cピラーにバッジを張りつける近年にない手法も“伝統と創造性の融合”だとか。

サイドウィンドウ後端を鋭利に折り返した形状にするBMW伝統のデザイン手法を「ホフマイスターキンク」と呼ぶが、BMW日本法人のプレスリリースによると、X2では“ホフマイスターキンクをCピラーに組み込むことで、ボディー後方まで窓の下部がせり立つラインを取り入れ、シャープで挑戦的なデザインへの拘りを表現”したのだという。

文字だけではよく分からないが、ホフマイスターキンクを、リアドアウィンドウより後ろの小さく黒い部分にギリギリまで凝縮しちゃいました……ということらしい。X2のサイドビューは、一見するとBMWの「ツーリング」とXシリーズのルールどおりの6ライト風だが、Cピラーにある最後端の窓っぽい部分は、実際にはただの黒い樹脂部品でしかない。

それはちょっと安っぽくもあるのだが、X2ではこうしたルール破りを逆に売りにしている。まあ、われわれ門外漢は「この程度で大騒ぎすることかよ!?」と思わなくもないが、ブランド品を組織で造形する商品デザインにあって、この種のルールをわずかでも改変することは大事件なのだろう。

それはそうと、もともと宿敵メルセデスなどより若々しいのが売りだったBMWですら、こうして“若者よ!”とさけばなければならないとは、これも時代なのか……。

日本では2018年4月に発売されたBMWのコンパクトSUV「X2」。「X4」や「X6」と同じく、BMWはスポーツ・アクティビティー・クーペ(SAC)と呼称する。
日本では2018年4月に発売されたBMWのコンパクトSUV「X2」。「X4」や「X6」と同じく、BMWはスポーツ・アクティビティー・クーペ(SAC)と呼称する。拡大
フロントマスクには、BMW車としては初採用とされる、下辺のほうが長い台形のキドニーグリルが装着される。
フロントマスクには、BMW車としては初採用とされる、下辺のほうが長い台形のキドニーグリルが装着される。拡大
BMWがCピラーに組み込んだと主張する「ホフマイスターキンク」。最後端の部分はガラスではなく樹脂でできている。
BMWがCピラーに組み込んだと主張する「ホフマイスターキンク」。最後端の部分はガラスではなく樹脂でできている。拡大
Cピラーに貼られたBMWエンブレム。「2000CS」といったBMWの往年のクーペモデルにならったものだという。
Cピラーに貼られたBMWエンブレム。「2000CS」といったBMWの往年のクーペモデルにならったものだという。拡大
カタログでは「一度見たら忘れられない」と紹介されているリアスタイル。
カタログでは「一度見たら忘れられない」と紹介されているリアスタイル。拡大
BMW X2 の中古車

パッケージレイアウトは意外に優秀

X1よりスポーツ風でクーペ的な商品性が与えられたX2の車体サイズは、全方位でX1より小さい。全幅まで(わずか5mmとはいえ)ナロー化されているのは意外だが、全長は80mm短い。さらにチョップドルーフのごとき特徴的なキャビン形状から想像されるように、背が低いのがX2最大の特徴だろう。高めのウエストラインとの対比もあって、X2のキャビンはこの種のクルマとしては異例に薄く見える。

1535mmというX2の全高は日本の立体駐車場も使えるサイズだが、思い返してみれば、先代(=初代)X1もグレードによっては全高1550mmを切る立駐対応SUVだったわけで、X2には先代X1のそんな部分の代替需要も想定されているわけだ。

ただ、X2の最低地上高は、たとえば同じプラットフォームの「2シリーズ アクティブツアラー」に対して15mmほどしか大きくなっていない。全高と地上高を差し引きすれば、X2のパッケージレイアウトは一応は普通のハッチバックよりは少しだけハイトワゴン的なそれである。実際、X2の後席空間は一般的なCセグメントハッチバックよりは少し広い(窓が小さいから閉所感はあるけど)うえに、ヒール段差も大きめで着座姿勢も健康的である。

それに、MINIにも使われるこのプラットフォームは空間効率も高いようで、荷室も前後長、容量ともにCセグメントとしては優秀な部類に入る。こうしてX2のパッケージレイアウトは意外にも(?)ちょうどよく実用的なサジ加減も魅力的なのだ。

テスト車のグレードは「xDrive20i MスポーツX」。MスポーツXには、エクストリームスポーツにインスパイアされたというフローズングレーの外装パーツが装着されるほか、内装にもさまざまな専用装備が採用されている。
テスト車のグレードは「xDrive20i MスポーツX」。MスポーツXには、エクストリームスポーツにインスパイアされたというフローズングレーの外装パーツが装着されるほか、内装にもさまざまな専用装備が採用されている。拡大
テスト車にはオプションの20インチホイールが装着されていた。タイヤは「ピレリPゼロ」のランフラットタイプ。
テスト車にはオプションの20インチホイールが装着されていた。タイヤは「ピレリPゼロ」のランフラットタイプ。拡大
カメラを利用したアダプティブクルーズコントロールは、ヘッドアップディスプレイや駐車支援機能などと合わせたセットオプション「アドバンスドアクティブセーフティーパッケージ」として用意される。
カメラを利用したアダプティブクルーズコントロールは、ヘッドアップディスプレイや駐車支援機能などと合わせたセットオプション「アドバンスドアクティブセーフティーパッケージ」として用意される。拡大

第一印象は“サーキット専用かよ?”

X2の“ルール破り”は、ある意味で走りの味つけにもおよんでいる。現時点では今回の「MスポーツX」というスポーツグレードしか乗ったことがないので、穏当グレードも含めたX2本来の味わいはよく分からない。しかし、少なくともこのMスポXはちょっと“やりすぎ?”なほどのゴリゴリ風味である。

思い返せば、X2の初試乗は箱根の山坂道だったが、その世界屈指の高速ワインディングでもX2は硬すぎに感じられるほどであり、思わず“サーキット専用かよ?”とツッコミたくなった。このあたりのやりすぎ感が、X2のいうルール破りということなのだろう。

この車格にして192psという2リッターターボは完全なホットハッチ級の高性能である。走行モードを「スポーツ」にすると、エンジンレスポンスはオン側はビンビンになるが、X2ではオフ側の回転落ちも目に見えて鋭くなるのがマニアックだ。同モードではさらに変速機もトルコン特有のぬるさを極小まで切り詰めた“スパンスパン!”のキレまくりとなる。

X2はそんなパワートレインに輪をかけて、シャシーもガチガチ系なのだ。パワステは先代X1ほど重くないものの、とにかく強力に効くうえに猛烈にレスポンシブ。ロールらしいロールも見せないまま、ステアリング操作だけでコーナーを次々と料理していく。

……といった記憶のもとに、今回は市街地や高速でもじっくり乗ることができたわけだが、その乗り心地は山坂道で感じた“サーキット専用”というほど暴力的ではなかった。

もちろん、絶対的にはかなりの武闘派フットワークであり、あくまで“20インチという異例の大径タイヤにしては”という条件はつく。とくに前後左右のタイヤをバラバラに蹴り上げるような不連続路面ではどうしてもドシバタと暴れてしまうが、良路ではそれなりにフラットであり、少なくともCセグメントの本格ホットハッチを平然と普段使いする好事家なら許容範囲だろう。

「MスポーツX」には、足まわりをハードに固めた「Mスポーツサスペンション」が装着される。
「MスポーツX」には、足まわりをハードに固めた「Mスポーツサスペンション」が装着される。拡大
フロントフード下には最高出力192ps、最大トルク280Nmの2リッター直4ターボエンジンが横置きされる。
フロントフード下には最高出力192ps、最大トルク280Nmの2リッター直4ターボエンジンが横置きされる。拡大
左コーナーを行く「X2 xDrive20i MスポーツX」。ほとんどロールしていないのが写真でも確認できる。
左コーナーを行く「X2 xDrive20i MスポーツX」。ほとんどロールしていないのが写真でも確認できる。拡大
フロントフェンダーの後ろに貼られる「M」のエンブレム。
フロントフェンダーの後ろに貼られる「M」のエンブレム。拡大

黒子に徹する4WDシステム

X2のシャシーでもっとも感心したのは、絶対的には硬質で荒れた路面ではときおり揺さぶられはしても、クルマのどこもミシリともいわず、そして速度を問わずに素晴らしくまっすぐ走ることだ。サスペンションの横剛性が高いのか、速度が増して硬いサスペンションにカツが入るにしたがって、どんどん快適になり、自慢の直進性にもさらに磨きがかかって、ドライバーの肩の力はさらにぬけていく。

これほどの硬質な身のこなしにパワフルエンジンの組み合わせで、しかもカーブで遠慮なく踏んでいってもまるで暴れないのは、当然ながら4WDの恩恵だろう。このレベルの動力性能だと、FFベースでは走行中のステアリング系になにかしらの影響を与えること必至だが、今回のX2のステアリングにはそんな兆候すらほとんど伝わってこない。

X2の4WDはあくまで黒子に徹するタイプだ。リアにあふれるほどトルク配分して後ろから蹴り出していくのではなく、いついかなる場面でも、ムダなトルクだけを前輪から絶妙に吸い出す。意識しないと4WDであることすら気づかせないシレッと系である。

こういうタイプの4WD制御では、不意を突く急加速ではさすがに間に合わずに、瞬間的に前輪をかきむしるものが多いが、X2にはそれもない。走行モードをスポーツにして、さらにトラクションコントロールの介入が制限される「DTC」を作動させても、前輪が暴れるそぶりすらなく、ステアリングに下品な反力が伝わることも皆無に近い。

そんな清涼なステアリングフィールと踏みながら曲がっていく旋回特性をもつX2の乗り味は、ルール破りというより“FFベースでいかにBMWにできるか”という執念がほとばしっているように思える。

駆動方式は4WDの「xDrive」。タイヤの切れ角や回転速度などからオーバーステア/アンダーステアの兆候を察知して、前後のトルクを適切に配分する。
駆動方式は4WDの「xDrive」。タイヤの切れ角や回転速度などからオーバーステア/アンダーステアの兆候を察知して、前後のトルクを適切に配分する。拡大
インテリアでは、レザーステアリングホイールや、インパネなどを飾るアルミ調パーツが「MスポーツX」専用装備となっている。
インテリアでは、レザーステアリングホイールや、インパネなどを飾るアルミ調パーツが「MスポーツX」専用装備となっている。拡大
ファブリックとアルカンターラのコンビ素材を使用したスポーツシートも「MスポーツX」専用。ステッチカラーにはイエローを採用している。
ファブリックとアルカンターラのコンビ素材を使用したスポーツシートも「MスポーツX」専用。ステッチカラーにはイエローを採用している。拡大
スポーティーな外観から想像するものとは裏腹に、後席にもきちんとした空間が確保されている。
スポーティーな外観から想像するものとは裏腹に、後席にもきちんとした空間が確保されている。拡大

思い起こすのは“あのクルマ”

それにしても、FFベースにして、これほど水平基調かつ俊敏系の身のこなし、硬質な剛性感……で思い出すのはMINIである。考えてみればBMW以外でX2にいちばん似ているクルマは、当たり前だがMINIの「クロスオーバー」である。ああ、このミズスマシ的な身のこなしは、言い換えればMINIでおなじみ“ゴーカートフィール”であった。

X1とX2、MINIクロスオーバーは基本骨格だけでなく、ハードウエア的な共通点が多い。2570mmというホイールベースは3台共通(というか、アクティブツアラーや「クラブマン」などとも共通)であり、3台の全幅は5mmずつ計10mmの差しかない。全高もつまりはキャビン形状のちがいでしかなく、3台で明確にちがうのは前後オーバーハング(=全長)だけ。そしてBMWでは「20i」と称される2リッターターボは、MINIでいう「クーパーS」に相当するパワーユニットだ。

このように基本的に同じ骨格設計とハードウエアで“BMWとはちがう若々しく俊敏な走り”と目指すX2がMINIに似てくるのは、いうなれば必然である。

まあ、車体のデザインやサイズが完全に一致するわけではないので、どこまでいってもまったく同じ味わいにはならない。しかし、骨格やプラットフォームが共通なら、本質的なスイートスポットはほほ同じになるのが物理の法則。そのスイートスポットから意図して離れるほど、クルマの味わいはどんどんイビツになっていく。よって、いかにブランドがちがえど、結局は似たようなところに落とし込まざるをえない。

それでも、X2が今のところMINIクーパーS クロスオーバーとまんまウリふたつにならないのは、クーパーS側に(おそらく意図的に)4WDが用意されないことだ。

まあ、MINIクロスオーバーとX2(ないしはX1)を同時所有する人以外は、おたがいに似ている似ていない……の議論はたいした意味をなさないだろう。いずれにしても、このX2は同クラスで指折りにガンガン踏めてゴリゴリに速いターボ4WDレジャー系スポーツである。Cセグメントとしては値段はかなり高めなのは事実だが、それでもたとえば「フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント」よりはギリギリ安い。機械はゴルフRのほうが複雑で高性能だが、商品としての鮮度とブランド力はX2である。

(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)

「BMW X2」は同じBMWの「X1」や「2シリーズ アクティブツアラー」、さらには「MINIクロスオーバー」などとも同じ「ULK2」プラットフォームを採用する。
「BMW X2」は同じBMWの「X1」や「2シリーズ アクティブツアラー」、さらには「MINIクロスオーバー」などとも同じ「ULK2」プラットフォームを採用する。拡大
2リッターターボの「xDrive20i」にはトルコン式の8段ATが組み合わされているが、1.5リッターターボでFF車の「sDrive18i」にはデュアルクラッチ式の7段ATが組み合わされる。
2リッターターボの「xDrive20i」にはトルコン式の8段ATが組み合わされているが、1.5リッターターボでFF車の「sDrive18i」にはデュアルクラッチ式の7段ATが組み合わされる。拡大
「X2」には通信モジュールが標準装備されており、インパネセンターの8.8インチタッチスクリーンに天気予報などの情報を表示できる。
「X2」には通信モジュールが標準装備されており、インパネセンターの8.8インチタッチスクリーンに天気予報などの情報を表示できる。拡大
メーターパネルは固定式の2眼の中の情報を、液晶パネルで表示するタイプ。表示内容やカラーリングは好みに応じて変更できる。
メーターパネルは固定式の2眼の中の情報を、液晶パネルで表示するタイプ。表示内容やカラーリングは好みに応じて変更できる。拡大
荷室の容量は470リッターから1355リッター。
荷室の容量は470リッターから1355リッター。拡大

テスト車のデータ

BMW X2 xDrive20i MスポーツX

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4375×1825×1535mm
ホイールベース:2670mm
車重:1620kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:192ps(141kW)/5000rpm
最大トルク:280Nm(28.6kgm)/1350-4600rpm
タイヤ:(前)225/40R20 94Y/(後)225/40R20 94Y(ピレリPゼロ)※ランフラットタイヤ
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:515万円/テスト車=585万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ガルバニックゴールド>(9万4000円)/グリッドクロスアンソラジット(0円)/セレクトパッケージ<電動パノラマガラスサンルーフ+ラゲッジコンパーメントネット+HiFiスピーカー>(18万6000円)/アドバンスドアクティブセーフティーパッケージ<BMWヘッドアップディスプレイ>(18万1000円)/20インチMライトアロイホイールダブルスポーク スタイリング717M(11万4000円)/電動フロントシート<運転席&助手席>(12万8000円)

テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2285km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:747.1km
使用燃料:74.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.1km/リッター(満タン法)/10.2km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW X2 xDrive20i MスポーツX
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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