TSIが見せた新世代の過給

1990年代に入ると、状況が一変する。日本ではスポーティーカーの人気が低下し、ミニバンやコンパクトカーが隆盛期を迎えた。パワーを追求するのでなければ、ターボは燃費が悪いという弱点ばかりがクローズアップされる。ハイブリッド車も増加し、ターボチャージャーを搭載したクルマの存在意義が薄れていった。

そんな中、欧州では2005年に新世代の過給エンジンが登場する。フォルクスワーゲンが発表したTSIエンジンだ。1.4リッター直列4気筒エンジンにスーパーチャージャーとターボチャージャーを装備し、2.5リッター自然吸気エンジン並みの性能を持つという触れ込みだった。デルタS4と同じツインチャージャーだが、考え方はまったく異なる。デルタS4が徹底してパワーと速さを追求したのに対し、TSIは全回転域で効率を高め、パワーと燃費を両立させることがテーマなのだ。排気量を小さくすることで燃費を抑えつつ、過給によって必要なパワーを確保することを意図したエンジンである。

1980年代に比べると、エンジン技術はさまざまな面で進歩していた。最大のポイントは、細やかな燃焼のコントロールを可能にする電子制御の進化だ。バルブには吸排気ともに可変タイミング機構を備え、点火時期を最適化する。スロットル制御も電子式で、ドライバーの意思を反映して効率よく燃料を供給できるようになった。排気圧力が高まった時に開けるウェイストゲートも含め、総合的にコントロールして燃料効率を高める。

かつてはノッキングを防ぐために圧縮比を低くせざるを得なかったが、吸気温度を下げて耐ノッキング性を高める技術も開発された。筒内直接燃料噴射システム(直噴システム)の採用は、ガソリンの気化熱でシリンダー内の熱を奪い、体積効率の改善にも寄与した。

1980年代は、どのエンジンもハイリフト型のカムを使って高回転域を優先していた。吸排気バルブと点火タイミングが固定されていたからである。可変バルブタイミング機構と直噴システムを備えたTSIは、効率を重視して全回転域での最適解の追求を可能にした。

直噴ターボエンジン「TSI」が初めて採用された「ゴルフV」こと5代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。
直噴ターボエンジン「TSI」が初めて採用された「ゴルフV」こと5代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。拡大
5代目「ゴルフ」の「GT」グレードに搭載された1.4リッターTSIエンジン。過給機にはターボとスーパーチャージャーの両方が採用されていた。
5代目「ゴルフ」の「GT」グレードに搭載された1.4リッターTSIエンジン。過給機にはターボとスーパーチャージャーの両方が採用されていた。拡大
1999年に「フォルクスワーゲン・ポロ」に採用された筒内直接燃料噴射装置。直噴システムは、ターボとともに今日のTSIエンジンを支える重要な柱となっている。
1999年に「フォルクスワーゲン・ポロ」に採用された筒内直接燃料噴射装置。直噴システムは、ターボとともに今日のTSIエンジンを支える重要な柱となっている。拡大
2015年に登場した「オーリス」の改良モデルより、トヨタが導入を進めている1.2リッターターボエンジン「8NR-FTS」。直噴システムや可変バルブタイミング機構など、さまざまな技術が組み合わされている。(写真=荒川正幸)
2015年に登場した「オーリス」の改良モデルより、トヨタが導入を進めている1.2リッターターボエンジン「8NR-FTS」。直噴システムや可変バルブタイミング機構など、さまざまな技術が組み合わされている。(写真=荒川正幸)拡大
あなたにおすすめの記事
新着記事