DS 7クロスバック グランシックBlueHDi(FF/8AT)
乗るときっと好きになる 2018.10.26 試乗記 遠目にはよくあるミドルサイズSUVだが、近づいてみれば印象はガラリ一変。ドアの向こうには、いたる所に格子柄がちりばめられた、まばゆい世界が広がっていた。この、ある種“イロモノ”のような雰囲気の漂う「DS 7クロスバック」だが、ひとたび走らせてみると、どこか昔のフランス車のような、懐かしい乗り心地を備えたクルマに仕上がっていた。シックというよりキラキラ
急増するインバウンド需要で盛り上がってはいても、わが日本の来日観光客数はまだ年間3000万人に届いていない。それに対してフランスはずいぶん前から8000万人以上をキープ、首都パリだけで年間3000万人以上が訪れるという世界一の観光大国である。それゆえにDSはパリへの憧れをブランドの土台に取り入れようとしているのだろう。ただ「光の都パリへのオマージュと伝統技法にインスパイアされたインテリア」といわれても、ああ、そうなんですか、と戸惑ってしまうのが正直な気持ちだ。なんだか新興時計ブランドのプレゼンテーションを聞いているようだ。こう言ってはなんですが、近年まれに見るほどの理解が難しいクルマである。ひとことで言って全体的にくどすぎる。ところが、乗ってみたら印象が俄然(がぜん)好転した。
その前にこだわりのインテリアである。ダッシュボード中央のアナログ時計がエンジン始動とともにグルリと回転して現れる仕掛けも(ただし「グランシック」グレードのみ)、オジサンには別に響かない。そんなことに手間をかけるぐらいなら、他にいくらでもすることはあるのではないかと考えてしまうのが世間ずれしたオジサンである。本物の「DS」を知らない若いユーザーならば(私も同時代ではないがかなり乗った経験はある)、おしゃれでユニークと感じてくれるのかもしれないが(そしてそれが狙いなのかもしれないが)、こちとら一本スポークのセルフセンタリングステアリングから半球型のブレーキスイッチやボビンメーター、もちろんハイドロニューマチックも含めて、かつてのシトロエンの数々のユニークなメカニズムを直で経験してきた世代である。この程度のもので驚かそうったってそうは問屋が卸さないわな、とつい口調がぞんざいになってしまう。いたる所にちりばめられた格子柄というか三角形のデザインモチーフも私の趣味ではない。グランシック(Grand Chic)というグレード名の割にはまるでシックな感じではなく、上質な空間というよりも、なんだかちょっとアクの強いインテリアデザイナーが手がけたキラキラ華美なクラブの内装みたいである。
変わっていることは基本悪いものではないが、普通とは違うことが目的になってしまっては本末転倒だろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
フラッグシップがSUV
2014年にシトロエンから分離独立したDSブランドの、最新のフラッグシップSUVというのがDS 7クロスバックの触れ込みだ。とはいえ、見た目は当節ごく当たり前のミドルクラスSUVだから、フレンチラグジュアリーといわれても、はいそうですか、と素直に納得できないのが違和感の始まりである。1955年デビューのオリジナルDSを引き合いに出すのは古すぎるとしても、かつての「CX」やもっと最近では「C6」、あるいはライバル、ルノーの「ヴェルサティス」や「アヴァンタイム」ぐらい常識を突き抜けたクロスオーバー的なモデルならいざ知らず、パッケージングやスタイリングには取り立てて斬新なところはない。インテリアにもいろいろと工夫というか小細工はあるようだが、特に目新しい機構やアイデアは見当たらない。
スタート間もないブランドだから品ぞろえが十分ではなく、現時点ではこのDS 7クロスバックがフラッグシップという位置づけだが、サイズからいうとミドルクラスであり、外寸は全長×全幅×全高=4590×1895×1635mm、ホイールベース2730mmと、「マツダCX-5」(外寸4545×1845×1690mm、ホイールベース2700mm)よりちょっと大きく背が低いボディーを持つ。20インチを履くグランシックグレードはそれなりにまとまったプロポーションで、インテリアスペースにも不足はない。
ディーゼルらしい力強さ
DS 7クロスバックのエンジンは2リッター直4ディーゼルターボと1.6リッター直4ガソリンターボの2種類、後者は上級グレードのグランシック専用なので、ディーゼル推しということだろう。
177ps/3750rpmと400Nm/2000rpmを生み出す「BlueHDi 180」ユニットは、アイドリングでははっきりディーゼルのメカニカル音が耳に届くが、いったん動き出せば期待通りの力強さを発揮する。これに組み合わされるのがアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATで、聞くところによると最高レベルの効率を誇る最新仕様という。
山道で微妙な加減速が欲しい際にはちょっとレスポンスがもどかしい時もあるが、それ以外は滑らかで頼もしく、カメラとミリ波レーダーによるちゃんとしたACC(アダプティブクルーズコントロール:DSでは「コネクテッドパイロット」と呼ぶ)が装備されることもあって、クルージングは快適である。ロングドライブが得意そうなのはDSと名前が変わっても以前通りのようだ。
昔のフランス車を思い出させる
DS 7クロスバックの最大の驚きにして美点は乗り心地とロードホールディングである。最近はスポーティーなハンドリングを強調した敏しょうなSUVばかりだが、DS 7はエアサスペンション仕様かと最初は思ったほど、ゆったりまったりストロークするのが特徴、大きめの姿勢変化を許しながらもスタビリティーは高く、なんだか昔のフランス車を思い出させる懐かしさがある。どちらのグレードにもカメラが車両前方5~25mの路面状態を検知し、ダンパー減衰力を最適化するという「DSアクティブスキャンサスペンション」なるシステムが備わっているというが、要するにダンパー減衰力を制御するだけのものらしく、これだけが理由ではないはずだ。これはエコ/ノーマル/コンフォート/スポーツの4モードのうちのコンフォートを選ぶと作動するという。スポーツでは確かにぐっと引き締まるが、上下動が明確という基本的なキャラクターに違いはない。ただし、コンフォートでも単にふんわりしているのではなく、ストロークはするが最後にはきっちりその動きを抑えてくれるのでタフで頑健な安定感がある。乗ったら印象がガラリと好転、どこまでも走っていきたくなるという困ったクルマである。
ジャーマンスリーの上級モデルほどではないものの、従来のフランス車とは比べ物にならないぐらい運転支援システムも充実しており、それで2リッターディーゼルターボ搭載のベーシックグレードが469万円という値付けはなかなか魅力的といえる。まあ、インテリアの趣味については何とも言いにくいが、それよりも心配なのはDS 7クロスバックを扱うディーラーが今のところ全国で7カ所しかないということだ。これから本当のフラッグシップモデルも登場するはずだし、今後もこのままのブランド戦略でいいのか、再検討をお願いしたいものである。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
DS 7クロスバック グランシックBlueHDi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4590×1895×1635mm
ホイールベース:2730mm
車重:1720kg(車検証記載値)
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)235/45R20 100V/(後)235/45R20 100V(グッドイヤー・イーグルF1アシンメトリック3)
燃費:16.4km/リッター(JC08モード)
価格:562万円/テスト車=619万1800円
オプション装備:パールペイント<ブラン アンドラディート>(9万1800円)/DSナイトビジョンパッケージ<ナイトビジョン、パノラミックサンルーフ>(48万円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:2783km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:214.8km
使用燃料:17.9リッター(軽油)
参考燃費:12.0km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
ボルボXC40ウルトラB4 AWD(4WD/7AT)【試乗記】 2026.6.6 ボルボのエントリーモデルにしてブランドの屋台骨を支える「XC40」も登場からはや8年。これまで内外装やパワートレインにおいて地道なアップデートが重ねられてきたコンパクトSUVは、いかなる進化を遂げたのか。トップグレード「XC40ウルトラB4 AWD」の走りを報告する。
-
ホンダ・インサイト(FWD)【試乗記】 2026.6.5 「ホンダ・インサイト」が電気自動車(BEV)として復活! ……というよりは中国工場製BEVにその名が与えられて日本にやってきた。さまざまな事情により、国内で販売されるのはわずか3000台のみ。日本人は“限定”に弱いとされるが、果たしてこの場合はどうか。
-
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】 2026.6.3 「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。
-
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】 2026.6.2 かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
NEW
モデルチェンジの「ここは絶対変えちゃダメ」は一体誰が決めるのか?
2026.6.9あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマのモデルチェンジにおいて、従来型から「変えるところ」「変えないところ」は、どのようなプロセスで決まるのか? さまざまなクルマの開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに実情を聞いた。 -
NEW
スバル・トレイルシーカーET-HS(4WD)【試乗記】
2026.6.9試乗記スバルから電気自動車(BEV)の第2弾モデルである「トレイルシーカー」が登場。ルーフの長いステーションワゴンスタイルのクロスオーバーという、いかにもスバルらしいBEVは、機能的で快適で、走らせても楽しい万能なマシンに仕上がっていた。 -
第337回:「ルーチェ」に比べればタダ同然
2026.6.8カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。フルモデルチェンジで3代目に進化した「日産リーフ」を夜の首都高に連れ出した。「非常に良くなった」「静かで快適」といった評判を耳にする量販・量産BEVのパイオニアに、カーマニアは何を感じた? -
ざわめきとともに「フェラーリ・ルーチェ」発進! 業界を揺るがす名門フェラーリの秘めたる野望とは?
2026.6.8デイリーコラム2026年5月末に披露されるや、世界的に物議を醸したフェラーリ初の電気自動車「ルーチェ」。意外すぎるルックスの新型車が目指すところは? フェラーリの事情をよく知る西川 淳が“異端の跳ね馬”の核心に迫る。 -
ホンダ・クロスカブ110ライト(4MT)【レビュー】
2026.6.8試乗記125ccクラスなのに原付一種扱いとなる、世にいう新基準原付。そのニューモデルである「ホンダ・クロスカブ110ライト」に、普段の道で試乗した。厳しい環境規制と、それに対するある種の救済措置が生んだ数奇なマシンの、ちょっと不思議な使用感を報告する。 -
日産リーフB7 G(後編)
2026.6.7思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。後編では新しいシャシーやモーター、バッテリーが織りなす走りの印象について聞く。第3世代のリーフは、ワインディングロードでどんな振る舞いを見せたのだろうか。












































