アルピーヌA110ピュア(MR/7AT)
アルピーヌがほしい 2018.10.29 試乗記 デビュー記念の限定車に続いて正式なカタログモデルの国内販売がスタートした、フランス生まれのスポーツカー「アルピーヌA110」。そのうち「ピュア」と名付けられたライトウェイトバージョンに、一般道とサーキットで試乗した。ワインディングロード命
2018年6月に50台が限定発売された新型アルピーヌA110の「プルミエールエディション」はアッという間に完売した。と思ったら、同年9月から受注が始まったカタログモデルが上陸し、10月半ばに富士スピードウェイで試乗会が開かれた。
webCGでも既報の通り、ラインナップは「ピュア」と「リネージ」(血統)の2グレードで、右ハンドル(RHD)の設定もある。注目の価格は白の外装色「ブラン グラシエ」(白い氷河)のRHDだったら790万円、試乗したブルーのメタリックのRHD、その名も「ブルー アルピーヌ メタリック」だと811万円で、プルミエールエディションはつまりメタリックの特別色の分だけお得だったことになる。ピュアはプルミエールエディションほぼそのままの仕様なのだ。
さてそのRHDモデルに試乗する前に、簡単な車両説明があった。以下、要約する。
アルピーヌブランドは2016年に復活し、2017年、量産型のニューA110プルミエールエディションが本国で発表された。1962年に誕生したオリジナルA110を現代によみがえらせたライトウェイトスポーツカーである。
開発チームには1973年の「A110 1600S」が半年間貸与され、まずはそのオリジナルの○と×、長所と短所の詳細なリポートを提出することから始まった。そして仕様書の冒頭に「軽量」という言葉が書き込まれた。目指されたのは、アルピーヌの名にふさわしい、アルプスのワインディングロードを楽しむための、ファン・トゥ・ドライブなクルマだった。
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飽くなき“軽さ”への執念
軽量。言うは簡単だが、実現はむずかしい。軽量であるために、ボディーはコンパクトでなければならない。オリジナルA110とは異なり、リアのエンジンを縦置きする、後輪駆動の2+2ではなくて、ミドシップ横置きの後輪駆動で純然たる2座とされたのは、オリジナルのプロポーションを守るためだった。現代の安全基準を満たしながらRRの縦置きにすると、991型「ポルシェ911」の大きさになるということだろうし、そもそもオリジナルのベースとなった「ルノーR8」のようなRRの量産車はもはやこの世になく、フランスの量産車といえば、横置き前輪駆動になっている。
全長4200×全幅1800×全高1250mmというサイズがこのようにして決定した。ちなみにホイールベースの2420mmという数字は、「ポルシェ718ケイマン」の2475mmより55mm短くて、「ロータス・エリーゼ」の2300mmより120mm長い。つまり新型A110はエリーゼよりもケイマンに近いサイズということになる。その分、乗降性や居住空間、荷室等々、実用性が高い。それでいて、新型A110の車重はエアコン、電動パワステに電動パワーウィンドウ、7段DCT込みで1110kgである。ケイマンの1390kg(PDK仕様)と比べるといかにも軽い。
カギはアルミニウムの大胆な採用にある。ボディーの96%はアルミで、残りの4%、前後のバンパーとルーフ部分は樹脂製となっている。生産されるフランスのディエップ工場にはプレスラインがないため、例えばプラットフォームはフロント、コックピット、リアと3つのパーツに分割してイタリアのサプライヤーから納入される。組み付けには1700以上ものリベットと接着剤が用いられている……。
というようなことで、まずはサーキットの外に出て一般公道を走った。前述したように試乗車はブルーメタリックのピュアのRHDである。それにしても、新型A110にプルミエールエディションと同じブルーはよく似合う。ブルー アルピーヌ メタリックと名づけられているぐらいだから、アルピーヌの太鼓判色である。
ポジションはばっちり
右側のドアを開けると、プルミエールエディションとほぼ同じインテリアが現れる。すぐにわかる違いは、ステアリングホイールの一部ヌバック風、あるいはアルカンターラ風だった部分が、同じレザーで統一されていることだ。もちろんジャン・レデレがアルピーヌを創立した年にちなんで1955台がつくられたプルミエールエディションのシリアルナンバーのプレートは、ピュアにはない。ピュアに軽量を追求しているのである。
RHDであることの違和感はみじんもない。前輪のタイヤハウスのためにペダルがオフセットしている、というようなことはないわけである。サベルトのファイバー製バケットシートは新型A110用に開発された重量13.1kgの軽量がジマンだけれど、リクライニングしない。世界各国で販売するクルマである。固定シートでベストポジションをいかに見つけるか。アルピーヌはこのために従業員100人全員の体形データをサベルトに送ったという。
そのかいあって、というべきだろう。シートにもなんの不満もない。前後スライドはする。ステアリングホイールはチルトも前後スライドもたっぷりするからベストポジションがとれる。後方視界は限られるけれど、ミドシップとしてはいいほうではあるまいか。
薄型のカードキーはすでに差し込んであって、センターコンソールの丸くてでっかいスターター(&ストップ)ボタンを押すと、背後の1798cc直列4気筒DOHC 16バルブは瞬時に目覚める。ルノー・日産連合が開発した新しい直噴エンジンであるところのこれは、ターボチャージャーが装着され、最高出力252ps/6000rpmと最大トルク320Nm/2000rpmを発生する。先日国内で発売となった新型「メガーヌ ルノースポール」と同型だけれど、あちらは279ps/6000rpmと390Nm/2400rpmに過ぎ……、ゲゲッ、440万円のメガーヌ ルノースポールのほうが811万円のアルピーヌよりパワーもトルクも上になっている。
これぞ「猫足」「人馬一体」
という小ネタはさておき、走り始めた途端に気分がよくなる。羽が生えたように体が軽くなる。クルマが自在に走る感覚がある。運転の喜びを得るためにつくられたライトウェイトスポーツカーなのである。富士スピードウェイを出て一般道を山中湖方面に向かう。狭い山道で路面はものすごく荒れている。その荒れた路面を軽くいなすようにして駆け抜ける。往年のフランス車で使われた表現、「猫足」なのだ。
前後重量配分は44:56で、これこそ理想である、とアルピーヌは主張する。重心は路面から465mmnと低く、ちょうどドライバーの腰の位置にある。ドライバーの腰が中心になってクルマが曲がる。鞍上人なく、鞍下馬なし。「人馬一体」である。
背後では1.8リッター直4ターボが野太く乾いた排気音で歌っている。時折高周波音が混じる。ターボチャージャーのウェイストゲートが開く音も入る。もちろん、イタリアのスーパーカーのような絶叫サウンドではない。先日亡くなったシャルル・アズナヴールの「忘れじの面影」、じつのところ筆者にはエルヴィス・コステロの「シー」のほうがなじみがあるけれど、ああいう感じ。ひとことでいえば、軽やか。エンジンは数値がすべてではない。大事なのはフィーリングである。太いトルクがナチュラルに湧き出てくる。
ブレンボとの共同開発によるブレーキは強力で、絶大なる安心感がある。電動パワーアシストながらステアリングフィールはまるでアシストがないかのごとくにひっかかりがない。前後重量配分や重心点等、基本がよいと、高価な部品を使わずともこのような自然な操舵の感触が得られるのである、と今回の試乗会のために来日したテストドライバー氏は語った。
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決め手はバランスのよさ
富士スピードウェイのショートサーキットも2周体験できた。筆者の場合、わずか2周では、いや、何周走ったところでたいしたことはわからないけれど、ふたつのことは証言できる。
ひとつは、ドライブモードを「トラック」にすると、ゲトラグの7段DCTは自動シフトアップをしない、ということである。ボーッとしていると、6750rpmのレッドゾーンまで一気呵成(かせい)に回ってカットオフが働く。
ロールはかなり大きい。Rによっては深々とする。その際、ロールスピードはかなりゆっくりだから不安感はない。電子制御ダンパーは持たないけれど、メガーヌ ルノースポールでも使われている「ダンパー・イン・ダンパー」という新開発の減衰システムがよくこれをコントロールしていることもあるだろうし、そもそものバランスのよさ、軽量がベースにあるということも、ここでもいえる。
試乗会の最後にはテストドライバー氏の助手席で見事なドリフトを堪能した。ショートサーキットの最終コーナーでドリフトアングルがつきすぎて、いったんステアリングを戻したような場合でも、身構えた筆者の予想に反してボディーへの揺り返しはほとんどなく、そのまま再びドリフト態勢に入った。これもまた、軽量であることとバランスのよさを物語る。ブレーキでスライドのきっかけを与え、あとはアクセルで微調整する。ということをドライバー氏から聞いて、自分でやってみたくなった。僕にもできた。になったらいいなぁ。コーナリング中、後輪の内側をブレーキ制御する「トルクベクタリングe-LSD」は持つものの、機械的なLSDは備えていない。
開発者自身が大いに楽しんでつくったスポーツカーである。フランス政府は昨年、2040年にガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止すると宣言した。新型アルピーヌA110がいったいいつまで存続するのか、生まれてきたばかりなのに筆者は心配でしかたがない。こんなにステキなスポーツカーをいま買わずして、いつ買うのか。俺はいままでなんのために働いてきたのか。なんのために生きているのか。ああ、アルピーヌがほしい。800万円。ほしい……。と、そっとつぶやいてみる。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アルピーヌA110ピュア
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4205×1800×1250mm
ホイールベース:2420mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:252ps(185kW)/6000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後ろ)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:14.1km/リッター(JC08モード)
価格:811万円/テスト車=816万1840円
オプション装備:フロアマット(2万7000円)/リアトランクマット(2万4840円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:392km
テスト形態:ロードインプレッションおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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