ボルボファンの家族には秘密が

グラハム家の敷地にはクルマが2台止まっている。どちらも「XC70」で、家族そろってボルボファンなのだろうか。アメリカ映画ではボルボは堅実さと合理性を象徴することが多いといわれる。しかし、グラハム家は明るく活動的なアメリカンファミリーとはほど遠い。家全体に不吉な影がさし、誰もが秘密を隠し持っているようなのだ。

アニーはミニチュアのハウス模型を作っている。ファンシーなドールハウスではなく、リアリズムを追求した精巧な作品だ。一応アーティストということになっているが、工作に取り組むことで本人の不安定な精神を落ち着かせる意味もあるのだろう。夫のスティーブンはセラピストで、彼女を注意深く見守っている。夫婦仲は悪いわけではないが、親密で温かな空気は感じられない。

カメラがグラハム家に入っていくと、そこはアニーの作ったミニチュアハウスだったりする。彼女の精神世界が家全体を内包しているように感じられる演出だ。アニーは初めから言動がおかしかった。老母の葬儀では追悼の辞で故人について恨みめいたことを話していたし、ピーターにはあからさまに攻撃的な言葉をぶつける。症状が悪化して集団セラピーに参加するようになると、オカルトじみたファミリーヒストリーを語った。

息子との関係は最悪である。ピーターはかつて母親が自分に灯油をかけて火をつけようとしたことがあると話す。アニーにはそんな記憶はなく、夢遊病のせいだと主張する。病気が原因だとしても、息子が恐怖心にかられるのは当然だろう。

(C)2018 Hereditary Film Productions, LLC
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「ボルボXC70」
2001年にワゴンの「V70」をベースとしたクロスカントリー版として登場。映画に登場するのは、2007年から2017年まで販売されていた2代目モデル。
「ボルボXC70」
	2001年にワゴンの「V70」をベースとしたクロスカントリー版として登場。映画に登場するのは、2007年から2017年まで販売されていた2代目モデル。拡大
 
第184回:XC70でも避けられない恐怖とは……『ヘレディタリー/継承』の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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