大事な市場で作るに限る

前述のようなセダン受難の状況下にあって、あえて世界でこの工場のみでボルボのセダン「S60」の生産を担当するというのは、当然ボルボにとっても英断であったはずだ。

新しいS60は、現在のボルボ車ラインナップの中にあって唯一ディーゼルエンジンが設定されない。これもまた、かねてディーゼル乗用車がポピュラーではないアメリカ市場を特別に重視していることを示す、ひとつの証左といっていい。ちょっと派手なエクステリアの、システム最高出力400ps超というハイパフォーマンスを売り物とするグレード「ポールスターエンジニアード」をデビュー当初から用意したのも、アメリカ市場に向けてのインパクトを重視してのことと考えれば納得がいく。

ちなみにボルボ自身は、そんな一連の新型S60のマニュファクチャー戦略については「これまでと同様に“地産地消”という考え方に基づいて、生産拠点をアメリカ工場に決定した」と説明している。

だからといって、ボルボがアメリカ国内の工場を“セダン専用”と位置付けているわけではないのは留意すべき点である。実際、現時点でも「次期『XC90』は、2021年からアメリカの工場で生産する」と発表しているし、今や世界最大の中国マーケットが、見栄えの立派な大型のモデルを好む傾向にあることを背景として、さらに大きなフラッグシップセダンである「S90」については、(すでに米中貿易戦争の影響を受け始めてはいるものの)「世界の中で中国の工場が担当する」という決断を下した実績もある。

今回、セダン戦略に関するものとして、「アメリカ国内でパワーユニットまで生産する予定があるか」「S60はアメリカ以外に中国工場でも生産する可能性はあるか」「生産設備としての工場だけでなく、研究・開発の拠点もアメリカに置く可能性はあるか」といった質問もボルボ側にしてみたのだが、それらに対する返事は「回答しかねます」にとどまった。しかしそれも、単なる秘匿なのではなく、何とも流動的な今後の状況を見極める必要があるからのように思えた。

ひと通りの新世代モデルが出そろった今、ボルボの世界戦略は、ことさら慎重な立ち回りが必要とされるアメリカでのセダン戦略を筆頭に、第2のフェーズに差し掛かったということだろう。

(文=河村康彦/写真=ボルボ・カーズ/編集=関 顕也)

チャールストン工場が本格的に稼働したのは2018年夏。将来的には現行型「S60」のほか、フラッグシップSUV「XC90」の次期型(2021年)の生産も担う。
チャールストン工場が本格的に稼働したのは2018年夏。将来的には現行型「S60」のほか、フラッグシップSUV「XC90」の次期型(2021年)の生産も担う。拡大
フラッグシップセダンの「S90」。こちらも地産地消の考えにのっとり、中国は黒竜江省大慶市にある工場で造られる。
フラッグシップセダンの「S90」。こちらも地産地消の考えにのっとり、中国は黒竜江省大慶市にある工場で造られる。拡大
アメリカ国内の新工場建設の場に東海岸のチャールストンを選んだ理由としては、地元の誘致活動のほか、海路を含む物流のよさなどが挙げられている。
アメリカ国内の新工場建設の場に東海岸のチャールストンを選んだ理由としては、地元の誘致活動のほか、海路を含む物流のよさなどが挙げられている。拡大
あなたにおすすめの記事
関連記事
  • ボルボS60 T4モメンタム(FF/8AT)【試乗記】 2020.4.10 試乗記 現行ボルボで唯一のセダンとなった「S60」に試乗。伝統のステーションワゴンやSUVが話題を集めている同ブランドにあって、セダンにはどんな魅力があるのか。最高出力190PSのエントリーモデル「T4」のステアリングを握り、箱根の山岳路で確かめてみた。
  • ボルボS60 T5インスクリプション(FF/8AT)【試乗記】 2019.11.7 試乗記 ボルボのDセグメントセダン「S60」が3代目にフルモデルチェンジ。端正で伸びやかなスタイリングが目を引く新型は、このセグメントをけん引するドイツ勢のモデルにも比肩する、実力派のプレミアムセダンとなっていた。
  • ボルボS60 T6 Twin Engine AWDインスクリプション(4WD/8AT)【試乗記】 2019.12.3 試乗記 高い動力性能を備えながら、それを過度に主張しない上品かつ控えめなキャラクターによって独特の存在感を放つ「ボルボS60」。プラグインハイブリッドシステムを搭載した「T6 Twin Engine」に試乗し、ライバルとは一線を画すプレミアムセダンの魅力に触れた。
  • アウディが新型「A3セダン」を発表 コックピットや操作系のデジタル化を推進 2020.4.24 自動車ニュース 独アウディは2020年4月21日(現地時間)、2代目となる新型「A3セダン」を公開した。欧州では同年4月末から受注を開始し、納車は同年夏にスタート。価格はエントリーレベルのガソリンエンジン搭載車で2万7700ユーロからとなる。
  • ボルボV60 T8 Twin Engine AWDインスクリプション(4WD/8AT)【試乗記】 2020.4.27 試乗記 ボルボの中核を担うステーションワゴン「V60」のラインナップで、最も高性能な「T8 Twin Engine AWDインスクリプション」に試乗。2リッター直4エンジンにターボとスーパーチャージャー、そして電動モーターを組み合わせた、“全部乗せ”400PSオーバーPHVの走りとは?
ホームへ戻る