ドゥカティ・スクランブラー1100(MR/6MT)
枠にはまるな 2018.12.22 試乗記 イタリア発のスクランブラーモデル「ドゥカティ・スクランブラー」シリーズに、最大排気量の「1100」が登場。リッターオーバーの空冷L型ツインエンジンを搭載した上級モデルには、他メーカーの空冷バイクにはないドゥカティならではの魅力が備わっていた。違いは排気量だけにあらず
ドゥカティがラインナップするスクランブラーには、大中小と3種のエンジンがある。2015年にまず800cc版が発売され、2016年に400cc版を追加。それを軸に外装や足まわり、ライディングポジションが異なるさまざまなバリエーションモデルを展開することによって、ラインナップを拡充してきた。そして2018年の夏、満を持して送り込まれたのがシリーズ最大のスクランブラー1100である。
とはいえ、そのデザインも、さして緊張感なく押し引きできる車体サイズも、アップライトなライディングポジションもも“400”や“800”とかけ離れてはおらず、気負うことなく走りだすことができる。810mmのシート高は平均的な成人男性の体格に満たなくても十分な足着き性が確保され、手を伸ばせばごく自然な位置にハンドルが備えられている。
そんなスクランブラー1100が他のシリーズと異なるのは、エンジンの出力特性が切り換わるライディングモードを備えているところだ。“400”も“800”もシンプルな素のバイクとして存在し、高度な電子デバイスも豪華なパーツもおごらず、スペックはほどほど。つまり、日常的に乗ってサラリと流すように仕立てられている。一方、1100は相応に高いアベレージスピードをキープした時にしっくりとくる。
例えばライディングモードの設定もそうだ。「アクティブ」「ジャーニー」「シティー」の3パターンが用意され、その名称からは次のような使い分けが想像できる。
- アクティブ……ワインディングで高回転を維持したスポーティーな走り
- ジャーニー……ツーリングや高速巡航におけるスムーズな走り
- シティー……街中での扱いやすさを重視したマイルドな走り
実際、アクティブとジャーニーはおおよそその通りなのだが、予想に反してシティーが生きるのが、街中よりもワインディングロードだった。
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ワインディングなのに「シティー」がオススメ?
というのも、シティーはビギナーに寄り添おうとするあまり、スロットルレスポンスが過度に穏やかな領域がある。街中で最も多用する3000-4000rpmがそこで、この回転域でスロットルを閉じると、次に開けた時の反応がやや遅く、その間に思いのほか回転が落ち込む。それがギクシャクとしたライディングにつながることがあり、ジャーニーのマッピングの方がより自然だ。
ではシティーに出番がないのかといえば、そんなことはない。4000rpm以上をキープしやすいワインディングではその穏やかな特性がプラスに働き、スロットルを大きく開けても挙動が抑制されるため、空冷Lツイン特有のトラクションを恐怖感なく引き出すことができるからだ。
また、シティーの方がトラクションコントロールの介入が遅くなる場面があり、それが高いスポーツ性につながるというユニークな現象も経験した。もちろん普通は逆なのだが、トルク変動が緩やかになることに加えて、シティーは最高出力が86psから75psに制限される。つまり、そうやすやすとトラクションコントロールが作動する領域に到達しないことが要因だ。単にパワーがカットされるからといえばそれまでながら、回転計を大きく上下させながら能動的にライディングしているという満足感が得やすい。
予想に反して、という意味ではタイヤもそうだ。オンオフ問わず走れることがスクランブラーの本質ゆえ、このモデルにもダートを意識したブロックタイヤが標準装着されている。言い方を変えるとオンロードでは早々にグリップ力の限界を迎えそうだが、これがかなりのバンク角を許容する。この手のタイヤ特有のゴツゴツ感やノイズもなく、スポーツツーリングタイヤと同じような感覚で走れてしまう。
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いまや希少な空冷スポーツユニット
スクランブラー1100の存在が明らかになった時、「800で十分」「スクランブラーは軽量コンパクトであるべき」といった否定的な意見も少なからず聞いた。60年代に流行したオリジナルのスクランブラーがそうだったように、そこにシンプルなレジャーバイクの姿を求めるなら確かにそうだ。
しかしながら、スクランブラー1100に込められた本当の価値はカテゴリーやネーミングがなんであれ、「高いスポーツ性を持つ空冷ビッグツイン」が復活したことにある。少し前は「モンスター」の1000や1100が、ひと昔前は「SS」の900や1000がその役割を担っていたものの、いまや大排気量車の主流は完全に水冷だ。
その反動もあって空冷を望むファンは決して少なくない。ポイントは、そうした嗜好(しこう)の人々が必ずしもノスタルジックなテイストを求めているわけではないことだ。空冷には牧歌的なイメージがあるが、抵抗なく「シャーン」と回り切るソリッドな一面もある。カタチは60年代風でも高揚感にあふれたスポーツユニットの片りんを見せてくれるところがこのバイクの魅力であり、「スクランブラーはかくあるべき」という小さな枠組みにとらわれる必要はない。
ハーレーダビッドソンやモト・グッツィなど、空冷ビッグツインの味を大切にしているメーカーはもちろん存在する。しかしながら、そこにスポーツを求めるならドゥカティが筆頭に躍り出る。スクランブラー1100はその面目を保つ希少なモデルである。
(文=伊丹孝裕/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2190×895×1330mm
ホイールベース:1514mm
シート高:810mm
重量:206kg
エンジン:1079cc 空冷4ストロークL型2気筒OHC 2バルブ
最高出力:86ps(63kW)/7500rpm
最大トルク:88Nm(9.0kgm)/4750rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:158万4000円

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。