製造品質に目をつぶれば

実をいうと初代パンダが意外に“過去”となっていたのは、デザインしたジョルジェット・ジウジアーロにとっても同じだった。

2018年春、御年80歳を目前としていた彼を筆者が訪問して日本に初代パンダファンがいまだ数多くいることを話すと、大変驚いていた。

デザイナーという職業柄、彼の意識が常に未来を向いていることや、日ごろから行き過ぎた自慢話をしない性格であることは理解している。だが、パンダという作品の国境を越えた知名度からすると、その反応はやや意外であった。

しかし、自動車のコンセプトという点からすれば、やはり初代パンダは高く評価すべきだろう。

トゥミネッリ教授は「『シトロエン2CV』や『ルノーR4』を追った結果として、これ以上シンプルにはできなかっただろう」と説明する。さらに「ボディーパネルだけでなくガラスもフラットにし、かつラジエーターグリルも鉄板とすることでコストダウンを図っている。フィアットとして初のロボット組み立てによるエンジンも実現した」と解説する。

特に例の初期型については、「ガーデン家具を想起させるシート、折りたたんだときには巨大な荷物スペースに変わるハンモック型の後席。それらは、よりリラックスした生活のためにささげられている」と絶賛する。

前述した欠点との整合性を図るため記しておくなら、第2次大戦中の兵器から戦後の電化製品まで、イタリアのプロダクトには、製造品質が伴わなかったものの、構想やそれから生まれるデザイン自体は極めて優れていたものが多々ある。初代パンダの初期型もその典型といえる。

イタルデザインが保存する1分の1モックアップ。
イタルデザインが保存する1分の1モックアップ。拡大
生産型やテールランプの形状、細部のエッジが微妙に異なる。
生産型やテールランプの形状、細部のエッジが微妙に異なる。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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