イタリア&フランスの場合

ボクが子どもだった1980年代まで、駅のホームで聞こえる電車の発車合図は、「チリチリチリ……」という、まさにベルが普通だった。それが「うるさく、せわしない」といった理由で、後年次第にメロディーへと変えられていった。結果として、地元の歴史や文化にちなんだご当地メロディーなどもたくさん導入されるようになった。

イタリアやフランスの場合、店や駅は基本的に静かである。電車接近を知らせるのは録音の音声アナウンスで、発車するときの音も「プーッ」といったブザーのみだ。フランス国鉄(SNCF)やパリ地下鉄(RATP)では、人力アナウンスの前にしゃれたジングルが流れるものの、いずれも3~4秒程度と極めて短い。

もしヨーロッパの駅にも電車接近メロディーが導入されれば、駅構内の治安が改善されるかもしれない。日本の駅といえば、地域限定ハローキティスイーツなどが並ぶ「エキナカ」に代表されるように、平和な光景が展開されている。それとは対照的に、欧州の駅は市内で最もセキュリティーの悪いエリアである。

ヨーロッパでは、多くの地下駐車場が、音楽による犯罪抑止効果を狙って終始小さな音でラジオを流しているから、それと同じ効果が駅にも期待できると考えられる。

だが、忘れてはならないのは、こちらの人々は音楽を愛していても、その乱用には敏感であるということだ。先日もイタリアで急きょ、アジア人経営の美容室に飛び込んだときのこと。隣に座っていたご婦人は「やかましい」と訴え、スタッフに店内放送を止めさせていた。

もちろん東京の場合、鉄道の乗客数/運行本数はヨーロッパと比べて格段に多い。ゆえに、注意喚起の機能を果たすメロディーが必要という論もあろう。しかしながら雑多な都市騒音が入り交じる中、同じメロディーを電子的に正確なリズムで、それも毎日朝晩と聴かされることになる。それを苦痛に感じる人がいることも、そろそろ心理学的にリサーチする必要があるのではなかろうか。

フランス映画の『男と女』や『シェルブールの雨傘』では駅が重要な舞台となる。そうした場面に、日本のような電車接近メロディーは似合わない。

フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅。つい最近までホームには誰でも入れたが、ようやく日本の改札に相当するゲートが設けられた。2019年1月撮影。
フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅。つい最近までホームには誰でも入れたが、ようやく日本の改札に相当するゲートが設けられた。2019年1月撮影。拡大
夜のフィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅。2019年1月撮影。
夜のフィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅。2019年1月撮影。拡大
フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅は、1935年開業のファシズム建築である。
フィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅は、1935年開業のファシズム建築である。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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