警告チャイムをおろそかにするな

もうひとつ指摘しておかなくてはいけないのは、「ノイズにまみれていると、音づくりにも疎くなる」ということだ。それを考えるときに思い当たるのは、ずばりシートベルト閉め忘れの際などに流れる、自動車の警告チャイムである。日本メーカーのクルマは、たとえ高級車であっても、警告チャイムの音色がその車両価格に見合わず素っ気ない。

ボク自身も日本人であるから、自国のブランドについて苦言を呈するのは、なんとも心苦しい。しかし、そうした安っぽい警告音に接するたびに思い描く、仮想の人物像がある――高校時代は騒々しい電車接近メロディーにあふれた駅から学校や予備校に通学。大学卒業後、晴れて一流自動車メーカーに入社するも、今度はつけっぱなしのテレビから音があふれた家庭で暮らし、会社では事務機器と検査機器、そして給湯室のポットが発するアラーム音が入り交じる職場で働いている――。彼が企画に携わったクルマは、警告チャイムの音色に気が払われているはずはない。試作車を審査する上司も同様の環境で育った人間ゆえ、製品は音に対する配慮がおのずとおろそかになる。

対して秀逸なのは近年のBMWの警告チャイムだ。軽やかな和音が使われている。それだけでBMWが欲しくなってしまう。ボルボも「ド」と「ソ」の繰り返しで耳に心地よい。いずれも神経に触らない音でありながら、きちんとアラームとしての機能を果たしている。

そうした「音」に対する配慮は、作り手とそれを評価する経営陣の双方がいて実現するものである。欧州の自動車メーカーの幹部に時折「若いころは音楽家になりたかった」もしくは「今も趣味で演奏している」という人を見かけることも、ひょっとしたら関係があるかもしれない。彼らのセンスにおカネを払うことは決して無駄ではない。

映画『男と女』でラストシーンの舞台にもなったパリのサン・ラザール駅。
映画『男と女』でラストシーンの舞台にもなったパリのサン・ラザール駅。拡大
パリ地下鉄12号線ポルト・ド・ヴェルサイユ駅にて。
パリ地下鉄12号線ポルト・ド・ヴェルサイユ駅にて。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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