差別意識を隠せないイタリア系白人

ドクターはコンサートツアーでアメリカを回ることになっており、運転と身の回りの世話を頼みたいという。トニーは「召し使いをやるつもりはない」と拒否。黒人との仕事に抵抗はないと口では言うが、彼も差別意識と無縁ではない。家に黒人の修理屋が来た際に妻が飲み物を出すのを見て、使ったグラスをゴミ箱へ放り込んだこともある。仲間うちでは黒人のことを“黒ナス”と呼んだりもしているのだ。イタリア系のトニーも恵まれた地位にいるとは言えないが、だからといって黒人への偏見を持たないわけではない。

社会的な階層で言えば、ドクターのほうが圧倒的に上位にある。北部では黒人に対するあからさまな排除はなく、才能があればそれなりには評価される。ドクターは身のこなしも優雅で、豊かな教養を持つインテリだ。トニーは見るからにガサツで暴力的な下層のイタリア系白人である。

トニーを演じているのはヴィゴ・モーテンセン。『イースタン・プロミス』では風呂場でいいカラダを披露していたが、今回は14kg増量して不摂生でだらしない中年オヤジになりきった。シャーリーズ・セロンが『タリーと私の秘密の時間』で18kg増量したのには及ばないとはいえ、見事なビール腹である。かつて『マシニスト』で28kg減量したクリスチャン・ベイルは、『バイス』のチェイニー副大統領役で増量。レオナルド・ディカプリオも『J・エドガー』でハゲデブになっていたし、ハリウッドではこういう無理な肉体改造がもてはやされるらしい。

ドクター・シャーリー役のマハーシャラ・アリは、『ムーンライト』で主人公の少年を優しく導くドラッグディーラーという難役を演じ、アカデミー助演男優賞を獲得した。見た目のノーブルさは共通だが、今回は育ちのよさからくる無神経さと孤高な精神を体現している。『アリータ:バトル・エンジェル』では冷徹な悪役で、体重を増減させることなく幅広い役柄を演じ分けているのは立派だ。

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第189回:ガサツな白人運転手がインテリ黒人を乗せて南部へ『グリーンブック』の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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