白人警官が道で待ち構える

ドクターはスタインウェイしか弾かないが、ボロピアノしか置いていないコンサート会場があった。ナメた態度をとる責任者に対してトニーはコパカバーナでつちかった“交渉力”を発揮してピアノを取り換えさせる。夜に白人経営のバーに迷い込んだドクターが袋だたきにされた時は、得意のハッタリをかまして救出する。ドクターにとってトニーは頼りがいのある相棒になっていた。トニーはドクターの素晴らしい音楽性に触れ、尊敬の念を強くしていく。

ツアーはルイジアナ州やミシシッピ州に進み、ディープサウスと呼ばれる差別意識が根強い地域に入っていった。For Colored onlyという看板を掲げるホテルは例外なくみすぼらしいボロ宿で、街角の洋服屋にドクターが入っても商品を売ってもらえない。クルマで走っている時も危険はいっぱいだ。白人警官はなにかとイチャモンをつけてクルマを停止させ、罪状をでっち上げて逮捕しようと待ち構えている。

コンサート会場につくと、楽屋として案内されるのは物置だったりもする。悪意ではなく、それが当然だと考えているのだ。笑顔で出迎えるものの、ドクターのことを自分たちと同じ人間だとは思っていない。音楽という共通言語をもってしても、両者が対等なコミュニケーションをとるのは不可能である。

製作と共同脚本を担当したのがニック・バレロンガ。トニーの実の息子だ。父から聞いた素晴らしいツアーの話をいつか映画にしたいと考えていた。ツアーが終わってからも親交があったドクターにかわいがられた記憶がある。今なお人種差別が根絶されたとは言いがたいが、トニーとドクターがお互いを理解していった旅の延長上に和解への道が敷かれていったのだ。

(文=鈴木真人)

© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.
© 2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.拡大
『グリーンブック』
2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。
『グリーンブック』
	2019年3月1日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

あなたにおすすめの記事
新着記事