関心がない理由

次に、イタリア人にゴーン事件はどの程度認識されているのか。今回の再逮捕直前に聞いてみた。

まずは、ルノーの販売店関係者に聞いてみる。すると「もちろん知っている」と即座に反応が返ってきた。そして「彼はこれまでも十分な報酬を受け取っていた」と笑いながら付け加えた。その口ぶりに、ややこしい話題を避けようというニュアンスはない。

知人の税理士にも「日産のトップが逮捕された事件があったが」と切り出してみる。すると彼は「ああ、かなりの金を稼いで、盗んでいた事件な」と言って笑った。

ただし、彼が事件を思い出すまでには、数秒の間があった。そして、ルノー/日産が絡む事件であるという認識はあっても、カルロス・ゴーンという名前は、ついぞ彼の口から出なかった。

経済・財務関係のリテラシーが比較的高い職業に就く人がこの程度である。一般人の多くは今回の事件どころか、カルロス・ゴーン氏の存在そのものを知らないのだ。

たとえ国境のすぐ向こうの国の事件であっても、こうも関心がない背景には、3つの理由が考えられる。

第1に、イタリア人が自国のニュースを追うことで精いっぱいだということがある。目下イタリアでは、2019年春からのベーシックインカム導入の話題でもちきりだ。さらに、「またか」といわれそうだが、アリタリア航空の経営問題も再浮上している。ちなみに2019年3月にゴーン氏再逮捕を扱わなかった『コリエッレ・デッラ・セーラ』電子版も、「イタリア国鉄とアリタリアの合併案」はしっかりと解説している。

「ワイドショー的」と前述したが、「ジャン!」の効果音とともにパネルボードをめくるような、日本的な情報バラエティー番組がイタリアに存在しないこともある。日本で一般人がありとあらゆることに関心を抱き、たとえ表面的だったとしても知識を得られるのは、そうした番組の力が大きいのだ。

第2は「ゴーン氏がスタイリッシュでないこと」だ。イタリアにもVIPの話題が好きな人々は存在する。ただし、それはグラビア映えすることが条件だ。

自動車業界では、フィアット創業家の故ジョヴァンニ・アニエッリ会長や、ルカ・ディ・モンテゼーモロ元フェラーリCEOには、女性誌でさえもたびたびページを割いてきた。

いっぽうで、2018年に急逝したイタリア系カナダ人のセルジオ・マルキオンネFCA前CEOは、フィアットを倒産の危機から救った功労者にもかかわらず、グラビア用トピックにはならなかった。辛うじて「なぜ彼はいつもセーター姿なのか」といったトリビアで盛り上がっただけだった。

このように、ルックスを重要視する国で、ゴーン氏が興味の対象にならないのは、写真を見れば簡単にわかる。

2012年パリモーターショーで。このショーで初公開となった4代目「ルノー・クリオ」とともに。
2012年パリモーターショーで。このショーで初公開となった4代目「ルノー・クリオ」とともに。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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