別にうらやましくないし……

第3に、多くのイタリア人にとってゴーン氏のライフスタイルが「さほどうらやましくない」ことがあろう。

イタリアでも、日産の海外子会社に購入させて使用していたとされる世界各国の別荘や、“オマーン・ルート”のヨットに関して触れているメディアはあった。だが、淡々と事実がつづられているにすぎず、特に感情的な筆致はみられない。

日本メディアは「ゴーン氏が“オマーン資金”で購入したヨット『社長号』がイタリア・ピサ近郊で修理中」と報道しているが、こちらでは報じられていない。

背景には、ゴーン氏が日産の資金を流用して取得したとされるものは、グレードに明らかな差はあれど、多くの人が似た体験をできるということがある。

まずは別荘だ。例えば住宅関連サイト『イデアリスト』の2015年公開記事によると、自宅以外にバカンス用の住居を所有しているイタリア人は全体の15.2%に及ぶ。つまり7人に1人以上だ。知人の元理髪師のおじさんも、退職前に海辺のアパートを購入した。

ヨットについても、日本の現状と比較するとかなりポピュラーな存在だ。例えば筆者の周囲に限ってみても、ヨットを嗜(たしな)んでいる人物が2人思い浮かぶ。いずれも自動車販売店の一般社員だ。

別荘もヨットも所有していない筆者が言うのもなんだが、彼らのものとゴーン氏の物件や船とは、まったくもって別物だ。元理髪師のおじさんの別荘は、筆者が女房とともに訪れただけで狭苦しくなるほど。セールスマンたちのヨットも3人乗るのがやっとである。しかしながら別荘やヨットというものが、まったくの別世界のものでないことは事実であり、ゴーン氏が年にわずかな回数しかそれらを楽しめなかったのとは対照的に、イタリア人でそうしたものを所有している人々は、季節が良くなると毎週末のように仲間たちと楽しんでいる。

ルノーがフランス当局に通知した、いわゆる“ヴェルサイユ宮殿の結婚披露宴”も、イタリア人にとっては特にうらやましい対象ではない。歴史的重要性こそ違うが、18世紀初めに完成したヴェルサイユの大トリアノン宮殿よりも何世紀も古い城館がイタリアのあちこちにあって、パーティー用に貸し出されている。物件によっては、城がまるごと売り物件として出されていることもあるのだ。

フェラーリのルカ・コルデーロ・ディ・モンテゼーモロ元CEO。2014年パリモーターショーで。
フェラーリのルカ・コルデーロ・ディ・モンテゼーモロ元CEO。2014年パリモーターショーで。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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