遊びに行ってもつまらない

ところで筆者が住むイタリアもEUの加盟国である。全国ネットのテレビニュースや主要新聞では、2019年に入って毎日のように一面扱いで英国離脱が取り上げられている。前回お伝えしたゴーン問題に対する落ち着いた対応とは対照的である。

イタリア外務省発表の資料を見ると、2018年の英国からイタリアへの輸出総額は112億ユーロにとどまる。対して、イタリアから英国への輸出は、その倍の235億ユーロにのぼり、かつ2016~18年には2年連続で増加している。参考までに業種別に見た伊から英への輸出トップは機械類だ。イタリアの数々の産業にとって英国はいいお客さんなのである。したがって、その行方に目が離せないのがわかる。

20世紀初頭から中盤にかけてのイタリアが貧しい時代は、多くの人々が移民としてドーバー海峡を渡った。今日でも優秀な研究者にとって、英国の大学は研究拠点として魅力的である。イタリア人の「頭脳の流出」が論じられるとき、必ず行き先として英国が挙げられる。

しかし、イタリア市民の日常生活について述べるならば、「英国が離脱しようがしまいが、あまり関係ない」というのが正直なところであろう。

その象徴的な例が観光の目的地だ。ロンドンにかぎっていえば都市として魅力的だが、イタリアより寒い英国にあえて遊びに行く必要はないと考える人が大半である。

EU圏なのに通貨ユーロを採用しておらず、国境の自由通行を定めたシェンゲン条約に加盟していない。だからポンドに両替するのも面倒だし、空港では入国審査に並ばなければならない。

ファッションアイテムをショッピングしようにも、イタリア人の目からすると英国のものは質は良くてもいまひとつさえない。外食しようとしても、安くてうまい店はピッツァをはじめとするイタリアンである。旅行先として、まったく魅力に欠けるのだ。イタリア統計局(ISTAT)が2015年に発表したイタリア人の旅行先トップ4はスペイン、フランス、クロアチア、ドイツで、上位に英国は登場しない。

辛うじて身近なのは、子供の語学留学や修学旅行先としてである。これは近年における英国系LCC(格安航空会社)の路線拡大が背景にある。

目下最新のロンドンタクシーは、吉利汽車系の企業が英国で生産している電気自動車「LEVC TX」。
目下最新のロンドンタクシーは、吉利汽車系の企業が英国で生産している電気自動車「LEVC TX」。拡大
「メルセデス・ベンツVクラス(ビアノ)」を流用したタクシーも。
「メルセデス・ベンツVクラス(ビアノ)」を流用したタクシーも。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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