まずいけどやめられない「英国の味」

2019年3月にロンドンを訪れたときのこと。この街で純粋英国ブランド車が急速に目立たなくなり始めたのは2010年頃からと記憶しているが、今回その傾向はさらに進んでいた。グループPSA系となったボクスホールでさえまれだ。

いっぽう、上海ショーの取材前に東京・秋葉原に立ち寄ったら、「こっちのほうが、よほど英国っぽかった」というのが、このページの写真である。

日本が英国化するのも無理はない。イタリアとの比較で恐縮だが、2019年3月の登録台数を見てみると、イタリアではアストンマーティンは1台なのに対し、日本は64台。ロールス・ロイスはイタリアでは数が少なすぎて統計対象外なのに対し、日本では18台なのだから。

と、イタリアにおける英国の影の薄さをこれだけ列挙しながら、筆者個人はひそかに愛好している英国製品がある。

その名を「マーマイト」という。ビールの醸造過程においてできる酵母をもとにした瓶入り食品だ。ビタミンBを多く含有する。

マーマイトとの最初の出会いは8年前、ロンドン郊外のB&Bだった。その色からチョコレートペーストだとすっかり思い込み、トーストパンにたっぷり塗ってひと口食べた。瞬間、死ぬかと思った。その味は「EUから離脱したいなら、勝手に出てけ!」と叫びたくなるものだ。

ただし、その独特の苦味は、英国人にとっては旅に出ると妙に恋しくなるものだという。イタリア人がどこに行ってもチョコレートペースト「ヌテッラ」を離さないのと同じだ。

驚いたことにマーマイトは今日、世界的消費財コングロマリットであるユニリーバの1ブランドになっている。

気がつけば筆者も、マーマイトのとりこになってしまった。英国の人からは「イタリアにもっとうまいものあるだろ」と失笑を買いそうだが、朝食べないと落ち着かない。

ついにフィレンツェの輸入食料品店にある、英国本国よりも2倍近いマーマイトに「ダメ、ゼッタイ」と思いながらも、手を染めるようになってしまった。まあ、伊英間の貿易不均衡是正にささやかな貢献ができることは確かだろう。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

2019年4月の午後、東京・秋葉原にて。ロンドンよりもロンドン風情。
2019年4月の午後、東京・秋葉原にて。ロンドンよりもロンドン風情。拡大
ロンドンのスーパーで「マーマイト」を発見。右は伝統的なガラス瓶、左は柔らかい容器で押し出せるタイプ。
ロンドンのスーパーで「マーマイト」を発見。右は伝統的なガラス瓶、左は柔らかい容器で押し出せるタイプ。拡大
そのエンブレムからして、エリザベス女王も召し上がっているのか。
そのエンブレムからして、エリザベス女王も召し上がっているのか。拡大
「イタリアにもっとおいしいものあるんだから、おやめなさいって」という声が聞こえてきそうたが、やめられないんです。
「イタリアにもっとおいしいものあるんだから、おやめなさいって」という声が聞こえてきそうたが、やめられないんです。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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