手動式から真空式を経て電気式に
メアリー・アンダーソンという名の女性が大都市の路面電車に乗ったのは、寒い時期のことだった。その日は悪天候に見舞われていて、運転手はたびたび電車を止め、ガラスにこびりついた雪や氷を取り除かなければならなかった。やがて運転手はその作業を諦め、フロントウィンドウを全開にして、外気にさらされながら運転を続けることにした。視界を確保するには、そうするしかなかったのである。
何か方法があるはずだと考えた彼女は電車の中でアイデアスケッチをまとめ、バーミンガムに戻ると工場で試作品を作らせた。室外に木とゴムでできたアームを設置し、ステアリングコラムの脇にあるレバーで操作する仕組みである。アームにはバネが組み込まれており、一度の操作で左右に往復して雨や雪を除去する。1903年、この装置には17年間有効な特許が認められた。
メアリーは“電気自動車等の車両のための、窓から雪、氷、みぞれを除去するためのウィンドウ・クリーニング・デバイス”を自動車メーカーに売り込む。しかし、どこからも採用されなかった。ワイパーの動きはドライバーの注意を散漫にし、事故の原因となる可能性があると判断されたのだ。
1920年に特許が失効すると、彼女の設計を利用してワイパーを製作する自動車メーカーが現れた。17年のうちに自動車のスピードが上がり、ワイパーの必要性は増していた。彼女の発明は早すぎたのだ。1922年には、キャデラックが初めてワイパーを標準装備している。
ワイパー誕生には別の物語も存在している。1910年に雨の中で運転していたトリコ社の社長が、自転車に乗った少年にぶつかってしまい、その経験から雨中でも視界の得られる装置を開発したというものだ。いずれにしても初期のワイパーは手動式で、実用性は十分なものではなかった。
やがて、手を使わないでも動くよう、エンジンの動力を利用する真空式ワイパーが開発された。便利ではあったが、欠点はクルマが減速するとそれに合わせてワイパーの動きも遅くなってしまうことだった。この問題を解決したのはドイツの部品メーカー、ボッシュである。1926年にボッシュが作った電気モーターを使ったワイパーは、現在の製品と基本的に変わらない原理に基づいていた。
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