シートヒーターの意外な効果

ユニバーサルデザインの車両ということで、会社では「バリアフリー研修」と称したレクチャーも受講済みなのだそうだ。

ただし、車いす対応に関していえば、第一線で働く人だから知る意外な現実も話してくれた。専用スロープの専有面積+路上での車いすの取り回しを考えると「最低でも車両本体から3mのスペースが必要」という。

「時間も、スロープ設置から取り外しまで含めると最低15分は必要です」

これを周囲の安全を確認しながら行うわけだ。幸い、ジャパンタクシーは2019年3月に車いすの乗降性改善を中心とした一部改良を受けた。社会の高齢化を考えるとき、車いすの乗客増加と同時に、タクシードライバーの平均年齢上昇も含める必要がある。引き続き、ドライバーの負担を軽減する改良を期待したい。

後部のサイドウィンドウ、つまり客席の窓についても教えてくれた。「右側(対向車線側)は開かないんです」。いっぽう左側(歩道側)のガラスを試しに下ろしてみると、顔を出せる程度まで開く。たとえ高度な空調が装備されていても、見送る人に窓を下げてあいさつする日本式礼儀をデザイナーが無視できなかったに違いない。

そういえば、車内にはまだ新車の香りが残っている。しかし、聞けばすでに14万km以上走行しているという。さらに「タクシーは60万kmまで使うこともまれではありません」と教えてくれた。

そう聞いた筆者はすかさず、イタリアで走行13万kmを超えた自身のクルマも「まだまだいけるぜ」と妙な自信を抱いた。

ただしそれにくぎを刺すかのようにドライバー氏は「タクシーは常に走り続けているから調子がいいんです。このクルマは朝6時から次のドライバーが乗務します。動かし続けたほうがいいのは、他のどんな機械とも同じですね」と話す。1カ月以上エンジンをかけないこともある筆者のクルマは、なんと不健康なことよ。

気がつけばジャパンタクシーにはシートヒーターも装備されていた。ドライバー氏いわく「お酒に酔ったお客さまは、ヒーターをオンにすると一発で寝てしまう」のだそうだ。そして到着間際に例の左側パワーウィンドウを運転席で操作して冷風を入れると、即座に目を覚ましてくれるらしい。聞けば、ドライバーは事後のあらゆるトラブルを回避するため、男女を問わずお客の体には一切触れないのが規則という。そうした中で、この“ヒーター&ウィンドウ法”は、酔客にかなり効き目があるようだ。

靖国神社近くで。2018年秋。
靖国神社近くで。2018年秋。拡大
表参道にて。
表参道にて。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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