スライドドアに感心

ところで筆者が住むイタリア・シエナで働くタクシードライバーの目に、ジャパンタクシーはどう映るのだろう。もちろん実車はないので、トヨタ自動車のウェブカタログをタブレット端末で見てもらった。

なお、イタリアのタクシーは、営業権を所持する人物からクルマを借りる形で運転しているドライバーも一部にいるが、基本的に個人所有である。ゆえに車種選択は慎重だ。

以下、話にとりとめがないが、着眼点とその順番をリアルに再現するため、彼らが指摘したとおりに記す。

まずは、アントニオ・リックッチさんである。これまでフォードやプジョー、そして「フィアット・スクード」などを乗り継いできた。現在は走行10万kmの「フィアット500L」で営業する。「フィアットの美点? サスペンション系部品を適切に替えるのをはじめ、整備をきちんとしていれば、ひたすら元気に回り続けるエンジンだ」と話す。

筆者もある程度予想していたことだが、ジャパンタクシーを見た第一声は「ロンドンタクシーみたいだな」であった。ただし、悪くないデザインという。「500Lもそうだけど、ルーフ・座面ともに高く、お年寄りは乗り降りがしやすそうだ」

ただしあまりに車高が高いので、空力的にどうかという疑問は残るという。「空力すなわち燃費」というのがその理由だ。ジャパンタクシーのボクシーでトールボーイ的なスタイルが、そうした印象を与えるのだろう。

次にアントニオさんが注目したのはシートだ。「掃除しやすそうな素材だな」。プロらしい意見だ。

もちろんスライドドアにも言及した。「お年寄りがドアを開けるとき、いつも怖いんだよね。これなら安心だ」。自動ドアでなく、お客自身が扉を開けるこちらのタクシーならではの視点だ。

最後にアントニオさんが指摘したのは、「石畳に耐えられるかどうか」だった。たしかにイタリアの石畳は手ごわい。状況によってはABSの作動にも影響し、かつその振動は内装の建て付けを悪化させる。参考までに前述した筆者のクルマも、経年変化でミシミシの合唱が激しくなってきた。石畳とどれだけ戦えるかは重要なのである。

先代「シトロエンC4ピカソ」で仕事をしているサルヴァトーレさんにも聞いてみた。彼はアントニオさんと対照的に、開口一番「デザインが古くさい!」とのたもうた。次に、同僚たちが乗っているトヨタのハイブリッド車に同様のバッジが付いていることを知っているのだろう、目ざとく「HYBRID SYNERGY DRIVE」のバッジを発見した。そして「ハイブリッドか……」とつぶやく。LPG燃料のエンジンとハイブリッド機構の組み合わせであることを説明すると、サルヴァトーレさんは「なぜフルEVがないのだ?」と筆者に問いただした。将来、環境規制によってクルマはフルEVに帰結することが規定路線なのだから、できればそれに準拠してほしい、というのが彼の希望だ。

「もうひとつ、ピカソと同様7人乗り仕様も欲しいな」。大家族を乗せることが多い観光地で、多人数乗りはたとえ荷室容量が制限されても大きなメリットになるという。

一般人の意見も聞いてみよう、ということで、土産物店を経営しているアウディオーナー、ドゥッチョ君に見てもらうことにした。ジュネーブ近郊出身のスイス人の妻セリーヌさんは、夫より先にジャパンタクシーのフロントグリルを「クライスラーのミニバンみたい」と指摘した。筆者の知る限りクライスラーに、明らかに相似しているといえるようなグリルはないが、アメリカ風というのは、日本人には欠落している視点である。

いっぽうドゥッチョ君は、これまた日本に住む人々が見落としやすい、あるものに注目した。それは「フェンダーミラー」だ。筆者が運転時の視線移動の少なさなどメリットを説明しても、彼はやはり「スタイリッシュではなく、到底受け入れられない」という。

シエナのマッテオッティ広場におけるタクシー乗り場。2019年5月撮影。
シエナのマッテオッティ広場におけるタクシー乗り場。2019年5月撮影。拡大
「フィアット500L」で営業するアントニオさん。
「フィアット500L」で営業するアントニオさん。拡大
アントニオさんが「ジャパンタクシー」に似ていると指摘する「ロンドンタクシー」。2019年3月、パディントン駅にて撮影。
アントニオさんが「ジャパンタクシー」に似ていると指摘する「ロンドンタクシー」。2019年3月、パディントン駅にて撮影。拡大
こちらは、東京・丸の内で2019年春に撮影した「ジャパンタクシー」。
こちらは、東京・丸の内で2019年春に撮影した「ジャパンタクシー」。拡大
「『500L』同様、『ジャパンタクシー』は室内高、座面とも高いのがいいね」とアントニオさん。
「『500L』同様、『ジャパンタクシー』は室内高、座面とも高いのがいいね」とアントニオさん。拡大
イタリア・シエナで。石畳は歴史的旧市街の景観を美しくする反面、クルマにとっては決して優しくない。
イタリア・シエナで。石畳は歴史的旧市街の景観を美しくする反面、クルマにとっては決して優しくない。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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