マインドを観察せよ!

ところで、一般の人々の意見はどうだろうか。イタリアのネット上ではFCAのマイケル・マンレイCEOが経営統合案発表直後に自身が保有する株式を大量売却したことから、現経営陣の資質を疑問視する意見や、FCAの将来の新車開発態勢が遅れていると指摘する声がみられる。

いっぽうで、「フランス政府の対応次第」とくぎを刺しながらも、「提携自体は明るい展望が開けるもの」とする意見もみられた。

筆者の周辺の人物にも聞いてみた。トリノを拠点とするフィアット販売店の幹部は「私たちにとって、極めてポジティブ」と答え、「ルノーと日産、そして三菱はEVをはじめとした環境対策車において先進的だ。それはすなわち、今日のフィアットに欠如しているものだから」と理由を述べた。

ルノー販売店の経営者も、今回の統合案に好意的だ。「今日と近未来の市場規模を考えれば、極めて有効な統合」と話す。

次にエンスージアストの意見も聞く。技術者として長年働いてきたイタリア人自動車コレクターは、「確実に技術力が向上し、コスト面でも改善が図られるだろう」としながらも、「欧州域外へと市場が拡大した場合、どこまで対応できるか」と慎重な見解も示した。

日ごろは警察官であるフランス人自動車愛好家の意見も聞いてみた。自身も「フィアット・ティーポ」に乗っていたことがある彼は、フィアットを大変いいブランドであると評価する。いっぽうでルノーに関しては、「信頼性に疑問が残る現行エンジンが改善されることに期待する」という。

彼はFCAのいちブランドであるクライスラーから連想したのだろう、その後今回の統合構想とは別に、1978年をもってプジョー・シトロエンに吸収されたクライスラー・フランスへと話が飛んだ。

「(当時クライスラーのブランドであった)シムカやその後継であるタルボも1975~1990年代には、フランスでは極めてポピュラーなものだった」と懐かしむ。

ヨーロッパは、いまだ家族の絆が強い社会だ。かつての好意的なブランドイメージは、日常会話の中で語られ、子や孫の世代にまで伝わりやすい。イタリアでルノーが外国車にもかかわらず安定した人気を誇り、「クリオ」が毎月4000台ペースで売れて販売トップ5の常連である背景には、普及価格で売られていること以上に、「ルノー4」時代からの根強い支持がある。

ついでにトリビアを披露すれば、ルノーとイタリアは遠い過去に協業の前例がある。イタリア産業復興公社の傘下にあった高級車メーカー、アルファ・ロメオは、第2次大戦後に普及価格のクルマをラインナップすべく、ルノー公団と提携。ミラノの工場で1959年から小型セダン「ドーフィン」を組み立てている。また、南部の工場では同様に「ルノーR4」の組み立てを始めた。これらは一定の成功を収めたが、イタリア政府が純粋国内ブランド振興へと政策転換したことにより、1964年に生産終了している。ルノーR4の組み立て工場は、その後「アルファ・ロメオ・アルファスッド」の生産拠点として用いられた。

経済ニュースで業績や現状を追うのも大切だ。しかし、ニュースを追う際、彼らが紡いできた歴史や両国の人々のマインド的視点に立つことも、その行方を占う一助になろう。統合や提携の結果を左右するのは、最終的にそれを評価するディーラーやユーザーといった「人間」なのだから。

(編集部注:この記事は日本時間2019年6月6日の朝に公開いたしましたが、その後にFCAがルノーへの統合提案を取り下げたことを発表しました)

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=藤沢 勝)

「ルノー・ドーフィン」(手前)は、1959年からイタリアでも生産された(写真はフランス生産のモンテカルロラリー仕様)。
「ルノー・ドーフィン」(手前)は、1959年からイタリアでも生産された(写真はフランス生産のモンテカルロラリー仕様)。拡大
イタリアでは長年ルノー車の人気が根強い。写真は2019年6月、アレッツォ県にて撮影。
イタリアでは長年ルノー車の人気が根強い。写真は2019年6月、アレッツォ県にて撮影。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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