民宿は“駐在所”だった

当日、「おすすめの代替施設」に宿泊すべくわが家から420km、イタリア北部のコモにクルマで向かった。

道路沿いの宿に到着し、外壁の色を見て「あれ?」と思った。イタリアの道路公団「ANAS(アナス)」の管理小屋と同じ色である。

筆者の到着を待っていてくれたのは、パオロさん&ダニエラさん夫妻であった。「もしかして、この建物は元ANASですか?」という筆者の問いに、夫妻は即座にうなずいた。

ダニエラさんは話す。「イタリアではムッソリーニ時代、道路環境の改善を図るためにANASの前身にあたる組織を創立して、一定区間ごとにカントニエレ(道路監視員)を配備したのです」

補足すると、ANASの前身は1928年、ファシスト政権下で設立された「AASS(国家道路公社)」である。最初の任務は、劣悪だった未舗装道路の補修および管理と近代的道路の建設であった。

ファシスト政権崩壊後の1946年には、AASSとほぼ同様の意味の略語であるANASへと改称される。

往年のカントニエレには、道路管理や交通管制だけでなく、警察に準じた権限も与えられていた。

ANASは管理用資材や機材を保管する小屋をイタリア全国に設置した。ちなみに筆者は長年、各地でこの「ANAS小屋」を見つけるたび、スナップを撮るのを楽しみにしてきた。

加えて、カントニエレを駐在させる家をイタリア全国に建てた。ちょうど日本の警察における駐在所のようなイメージである。小屋も家も、外壁色は濃い赤だ。

「ANASが建てたカントニエレの駐在所には、いくつかの規格があって、建てる場所に応じて使い分けていたのです」とダニエラさんは説明する。

オーナーのパオロ(上)&ダニエラ(下)夫妻。
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リビングルームの様子。
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モンツァを発祥とするキャンディ製のテレビをリサイクルしたオブジェ。
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筆者にあてがわれた部屋。
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典型的なANASの資材小屋。筆者が住むイタリア中部シエナ県にて。
典型的なANASの資材小屋。筆者が住むイタリア中部シエナ県にて。拡大
ANAS駐在所建屋の一例。フィレンツェ郊外のシーニャで。
ANAS駐在所建屋の一例。フィレンツェ郊外のシーニャで。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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