「大人のモーターショー」だった

パルコ・ヴァレンティーノには「モーターショー」の名が冠されているものの、パリやデトロイトのようなOICA(国際自動車工業連合会)認定ショーではない。従来のショーとは一線を画す企画だった。

まずはメイン会場である。前述したように、パビリオンではなく市内の公園を用いている。つまり屋外だ。車両展示スペースも、出展者すべてが規格型の箱型スタンドに、1台または2台をディスプレイする形がとられている。日本円で何億円といった単位の出費を要する国際ショー出展よりも、はるかに出展者負担は少ない。

さらに会期中には、メイン会場や市内のピアッツァ(広場)を基点に、メイク別走行会などが企画され、一部は旧市街を閉鎖して行われる。2019年は「マツダMX-5」のファン走行会や、シトロエン100周年ランなどが企画され、それらを含めたスペシャルイベント企画の数は計30に達した。いわば、市内の主要エリアを巻き込んだクルマの祭典なのである。加えて、一部エリアを除いて入場無料であることも大きな特色だ。

繰り返しになるが、2019年の来場者数は5日間で70万人に達した。2017年の「東京モーターショー」が10日間で77万1200人だったことを考えると、トリノは半分の会期で、それに近い数を集めたことになる。

また、2015年に開催された第1回の来場者が30万人だったことを考えると、その2.3倍以上に成長した計算だ。そうした経緯から、当初は地元ディーラーに任せていたブランドも、メーカーやインポーターが積極的にイニシアチブをとって参加するようになっていった。

メイン会場は深夜0時まで開いている。夕涼みや犬の散歩がてら、夏のフェスタ(お祭り)感覚で、たとえクルマ好きでなくてもふらっと訪れる人が少なくない。ムードに焦点を当てて語るなら、日本の小さな町で開催される地元産業展に似た、どこかゆるい感じである。

筆者などは、かつて両親から聞いた東京・日比谷公園の1954年「第1回全日本自動車ショウ」は、こんな感じだったに違いない、と想像を巡らせた。同時に、少年時代だった1970年代末から1980年代初頭に筆者が訪れた東京・晴海の「外車ショウ」は、パルコ・ヴァレンティーノよりもはるかに簡素な規格型スタンドだった。実際、ヤナセから西武自動車まで同じ造作物にクルマを展示していた。

パルコ・ヴァレンティーノには、欧州・日本の主要ブランドのほか、イタルデザインやピニンファリーナ、そしてGFGスタイルといった地元トリノのカロッツェリアも毎年参加してきた。

彼らは3月のジュネーブショーに展示したコンセプトカーを持ってくるのが常だ。それらを、より近い距離でじっくりと見られるのがうれしい。とりわけ、人工光にあまり頼らない、自然光におけるボディーのリフレクションを確認するには、絶好のロケーションだ。時間によっては、ファブリツィオ・ジウジアーロ氏といったカーデザイン界の最前線で働く人が、半分ウィークエンドモードでやって来ることがある。

対して、OICA認定でありながらここのところ開催中止年が相次いでいる「ボローニャモーターショー」は、数々の自動車メーカーから見放された従来型ショーの末期的状態であった。同時に、仲間と一緒に訪れてコンパニオンと一緒に写真に収まりたがるイタリア版の“カメラ小僧”に占領された感があって、どうもなじめなかった。会場も郊外のメッセで殺伐としていた。

いっぽうパルコ・ヴァレンティーノは、のどかなムードながら、前述のように濃い内容であった。それが、トリノのパルコ・ヴァレンティーノ・モーターショーだった。まったくコンセプトの違う大人のモーターショーだったのだ。だからこそ筆者は今年、第1回以来5年ぶりに訪れてみたのである。

2019年6月23日朝、市内と郊外間の約40kmを使って開催された走行会「グランプレミオ・ヴァレンティーノ」にて。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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