衝突後でもドアが開く

ホンダは2019年7月18日の新型「N-WGN」発表に合わせ、報道関係車を栃木県の本田技術研究所オートモービルセンターに招き、軽自動車と登録車の衝突実験を公開した。残念ながら衝突させる車種はN-WGNではなかったのだが、新型N-WGNと同じプラットフォームを使う現行型「N-BOX」と、最新のハイブリッド車「インサイト」が用いられた。2つの車両の間には約1.5倍の重量差がある。

実験の舞台は、ホンダが2000年4月に完成させた屋内型全方位衝突実験施設だ。衝突の条件は、N-BOXとインサイトをそれぞれ50km/hで走らせ、50%オフセット衝突させるというもの。広い衝突実験施設の左からN-BOXが、右からインサイトが走ってきて正面衝突する。見学席はかなり離れていたにもかかわらず、その瞬間には「バスン」というかなり大きい音が伝わってきて、衝突の激しさを実感させた。

衝突した2台の車両に近づく。先ほどの金属球の例で説明したように、重量差のある物体が衝突した場合、重い方は速度を落として前進し、軽い方は後退する。インサイトはその理屈どおり、衝突地点からやや前進した位置に止まっていた。これに対してN-BOXは、今回の衝突形態が50%オフセット衝突だったこともあり、単に後退するだけでなく、車体を回転させる力も加わったため、横向きの位置で停止していた。

衝突した右側のエンジンルームは跡形もなくつぶれているが、キャビンの形態はよく保たれ、フロントドアも、やや引っかかりはあったものの人間の手で開けることができた。説明してくれた担当者によると、足元スペースも確保されているという。筆者は意地悪く「登録車の『フィット』と比べても安全性は遜色ないんですか?」としつこく聞いてしまったのだが、現場の担当者は「大丈夫です」と胸を張って答えていた。

ホンダはこのほかにも、1998年に世界で初めての歩行者ダミー「POLAR」を開発し、現在では3代目の「POLAR III」に進化させている。車両に衝突したときに歩行者がどのような衝撃を受けるかを精緻に評価するのが目的だ。コンパティビリティーをうたう車体構造を採用する軽自動車は現在のところホンダだけが商品化しているが、この歩行者ダミーもまたホンダ独自の技術である。こうしたところにも、事故の実態をなるべく忠実に再現し、実験室だけでなく実際の事故での被害を防ごうとするホンダの姿勢が表れていると言っていいだろう。

(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

衝突実験後の「インサイト」(左)と「N-BOX」(右)。N-BOXははじき返されるとともに、車体に回転する力が加わり、横向きに停止している。
衝突実験後の「インサイト」(左)と「N-BOX」(右)。N-BOXははじき返されるとともに、車体に回転する力が加わり、横向きに停止している。拡大
運転席側のドアを開けるホンダのスタッフ。いささかの引っかかりはあったが、ドアは人の手で開けることができた。衝突事故では、乗員の搬出のしやすさも重要なポイントとなる。
運転席側のドアを開けるホンダのスタッフ。いささかの引っかかりはあったが、ドアは人の手で開けることができた。衝突事故では、乗員の搬出のしやすさも重要なポイントとなる。拡大
歩行者ダミー開発の歴史を紹介するホンダのスタッフ。ホンダでは1988年に歩行者保護の研究を開始。既存のインパクタ(頭部や脚部を模した球状や棒状のダミー)では人体への影響を正確に再現できないことから、歩行者ダミーの自社開発に着手した。
歩行者ダミー開発の歴史を紹介するホンダのスタッフ。ホンダでは1988年に歩行者保護の研究を開始。既存のインパクタ(頭部や脚部を模した球状や棒状のダミー)では人体への影響を正確に再現できないことから、歩行者ダミーの自社開発に着手した。拡大
現在使用している歩行者ダミー「POLAR III」。ホンダは歩行者保護の研究のため、1998年に初めて歩行者ダミーを開発。3世代目となるPOLAR IIIでは、より広範囲における詳細な解析を実現するため、形状を見直すとともに、より人体の特性に近い材料を選択。腰部や大腿部など下半身の構造も進化させている。
現在使用している歩行者ダミー「POLAR III」。ホンダは歩行者保護の研究のため、1998年に初めて歩行者ダミーを開発。3世代目となるPOLAR IIIでは、より広範囲における詳細な解析を実現するため、形状を見直すとともに、より人体の特性に近い材料を選択。腰部や大腿部など下半身の構造も進化させている。拡大
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