ぶつかり合う現実と妄想

回想シーンでは、市子という役名で登場する。訪問看護の仕事をしていて、誠実な仕事ぶりには定評があった。老女の世話をするために通う大石家では家族全員から信頼を寄せられている。長女の基子(市川実日子)とはいい関係で、介護福祉士を目指している彼女の資格取得の勉強を手伝うことも。中学生の次女・サキ(小川未祐)からも慕われている。

勉強会をするのは、行きつけの喫茶店だ。サキも一緒にいたが、彼女は学習塾へ。入れ替わりに入ってきたのが、基子に頼まれて参考書を持ってきたおいの辰男(須藤蓮)だった。戻ってきたサキと、一瞬視線が交わる。学習塾が終わっても、サキは大石家に帰らなかった。数日後、サキは保護されるが、逮捕された犯人を見て基子は言葉を失う。

映画は現在と過去のシーンが入れ替わるように現れ、リサ/市子の心の中で展開される映像も加わる。説明のないまま唐突に場面が変わるので、観客は戸惑いながらついていくしかない。現実と妄想はゴツゴツとした感触でぶつかり合うが、接点はあやふやなものだ。確固としたリアリティーなど存在しない。足元のおぼつかない感覚が、スクリーンから伝わってくる。

市子はいわれのない疑惑をかけられ、生活は崩壊する。メディアスクラムが彼女を追い詰める様子が描かれるが、映画は社会悪を告発しようとしているのではない。市子が決定的に転落するのは、最も身近な位置にいた人の裏切りがきっかけである。しかし、そこに悪意は介在しない。むしろ、原因は愛なのだ。

(c)2019 YOKOGAO FILM PARTNERS & COMME DES CINEMAS
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第199回:最強のMILFは最凶のプラッツで暴走する『よこがお』の画像拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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