22年前の思い出

それによると、島の玄関口であるポルト・フェッライオでフェリーを降りてバスの時刻表を見たところ、驚くほど本数が少ないことが判明。慌てて港にあった地元レンタカー店に飛び込んでいる。

店は明らかに家族営業だった。お母さんが受付をし、おやじさんが整備をし、そして子どもがクルマを洗っていた。

お母さんは「『フィアット・パンダ』なら、1日あたり7万リラのところ、1週間で40万リラ(当時の換算レートにして約3万円)にする」という。当然のことながら、今日でいう初代フィアット・パンダである。

所定の借り出し手続きを終え、パンダに乗り込んで絶句した。外装こそ洗ってあるものの、室内の至るところが白い砂ぼこりで覆われ、助手席シートベルトのキャッチは壊れていた。

それでも走りだすと、ティレニア海の爽やかな風がたちまち車内に吹き込んできた。

この先にどんなにビンボーでもやっていけるかも、という勇気を、その初代パンダは筆者と女房に与えてくれた。

1週間後にレンタカーを返しに行くと、例の受付のお母さんは、「暑いから飲んでってえ」と言って、冷蔵庫からビール瓶を2本取り出してきた。そのときは帰りの船で酔ってしまいそうだったので丁重に断ったが、レンタカー店でビールのふるまいとは。こういうフレンドリーな人たちがいる国なら、なんとかやっていけそうだと、またまた思った。

先日たどったのは、22年前に訪れたそのときとほぼ同じルートだった。今乗っているのは欧州製小型AT車だが、ワインディングロードと山道がかなり長く続き、本土のフラットなアウトストラーダを走るようにはいかない。マニュアル4段のうえに馬力はこの3分の1、エアコンなしのボロいパンダで、よく走ったものだ。今回、現役の初代パンダとすれ違うたび感慨にひたったのは、いうまでもない。

イタリアに住む筆者は、フェラーリやランボルギーニの歴史やブランド姿勢をリスペクトしながらも、所有したいと考えたことはないし、所有するために働こうと思ったこともない。これからもそうだろう。

代わりに、あの頃の無謀ともいえる自分の勢いと、それを思い出させてくれる美しい島や人々のクルマがあるだけで幸せなのである。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA> 写真=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)

三輪トラック「アペ」があると、つい一緒に記念写真に収まってしまう筆者。
三輪トラック「アペ」があると、つい一緒に記念写真に収まってしまう筆者。拡大
プロパンガスの運搬に使われている「アペTM」。ポルト・フェッライオにて。
プロパンガスの運搬に使われている「アペTM」。ポルト・フェッライオにて。拡大
筆者のアルバムから。1997年6月に借りた初代「フィアット・パンダ」。
筆者のアルバムから。1997年6月に借りた初代「フィアット・パンダ」。拡大
今もエルバ島で初代「パンダ」(写真左)を見かけると、22年前を思い出す。
今もエルバ島で初代「パンダ」(写真左)を見かけると、22年前を思い出す。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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