ランボのインパクトは続く

ついでにいうと、ミウラSの効き目がどれほどあったかは定かでないが、知人が育てたトマトは、おすそ分けしてもらうと芳醇(ほうじゅん)のひとことに尽きる。スーパーで買うものとは濃さが段違いだ。個人的には、知り合いにランボルギーニ・ミウラのオーナーがいるより、こちらのほうがうれしい。

ところでイタリアでは今日でも、年配の人に「ランボルギーニといえば?」と問うと、「トラクター」と答える人が少なくない。実際、1972年にランボルギーニの農機部門を買収したサーメは、SDFと社名を改め、今日でもランボルギーニブランドのトラクターを生産している。また、フェルッチョ時代の古いモデルも、農家によって大切にメンテナンスされて郊外で生き延びていることが多い。ランボの農機は今も現役なのである。

いっぽう「スポーツカーのランボルギーニといえば?」と聞くと、即座に「ミウラ」と返ってくるのが常だ。

ミウラ登場後のイタリアは1969年の「熱い秋」と呼ばれる労働運動、そして1973年の第1次オイルショックという暗いトンネルに次々と吸い込まれてゆく。

日本では前述した筆者の子ども時代にスーパーカーブームがあったおかげで「カウンタック(クンタッシュ)」を知る人は多いが、本場イタリアでそれを覚えている人が限られるのは、当時社会的ムードが一変し、スーパーカーどころではなくなってしまったことを物語っている。

戦後イタリア社会が最も活況を呈していた時代のクルマ。ゆえに今日でも、イタリアではランボルギーニといえばミウラなのであり、ワードとしてのMiuraは今も輝いているのである。SUSHIレストランの一品としてその名が選ばれ、まったく違和感なくイタリア人に受け入れられているのは、こうした経緯があるからと筆者は信じる。

最後に、ランボルギーニが社会に与えたインパクトということで、最新例をもうひとつ。フェルッチョの孫のひとり、エレットラ・ランボルギーニは、歌手&タレントとして、あのユニバーサル・ミュージックからデビューしている。2016年には『プレイボーイ』誌のグラビアも飾っている。

公式サイトにおける彼女のビジュアルは、見る人によってはかなりのインパクトであろう。なにしろ背中や臀部(でんぶ)の一部にはヒョウ柄のタトゥーが施されていて、ダイヤモンドによるピアスの数は体全体で42に及ぶという。

それでも、もしフェルッチョが生きていたら、数々の伝説を生んだ彼の豪快なキャラクターからして、この大胆な孫娘をさぞかし溺愛していたに違いない。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、ランボルギーニ/編集=藤沢 勝)

参考までに。これは知人が「ミウラS」を使って育てたトマト。
参考までに。これは知人が「ミウラS」を使って育てたトマト。拡大
ミウラはイタリア経済成長のひとつのシンボルとなった。1968年「ランボルギーニ・ミウラ ロードスター」。
ミウラはイタリア経済成長のひとつのシンボルとなった。1968年「ランボルギーニ・ミウラ ロードスター」。拡大
1960年代後半におけるランボルギーニ製トラクターの数々。山岳部や丘陵地が多いイタリアにふさわしい小さなサイズが当時好評を博した。今日でも生き延びている姿をたびたび目にする。フェルッチョ・ランボルギーニ博物館で。
1960年代後半におけるランボルギーニ製トラクターの数々。山岳部や丘陵地が多いイタリアにふさわしい小さなサイズが当時好評を博した。今日でも生き延びている姿をたびたび目にする。フェルッチョ・ランボルギーニ博物館で。拡大
自動車事業と農機事業の双方を売却したあと、フェルッチョ・ランボルギーニが集中したのはワインづくりだった。これは1978年「ミウラの血」。
自動車事業と農機事業の双方を売却したあと、フェルッチョ・ランボルギーニが集中したのはワインづくりだった。これは1978年「ミウラの血」。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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