スターが乗るのはキャデラック

仕事がある時は、クリフが運転手としてリックを撮影所に送り届ける。リックは飲酒運転で事故を起こし、免許がないのだ。ハリウッドスターだから、クルマはもちろんキャデラック。クリーム色の「クーペ ドゥビル」である。カーステレオからは、常にヒット曲が流れている。家に帰ればシリーズ物のドラマを観る。テレビとラジオが生活に欠かせなかった時代の話だ。タランティーノは、そんなライフスタイルが50年後の今も続いていてほしかったと思っているのだろう。

新世代の感性を持つポランスキー夫妻は、いかにもなキャデラックには乗らない。「MG-TD」でさっそうとパーティーに出掛ける。旧式のオープンカーだから容赦なく風を巻き込むが、シャロンはマキシコートとスカーフで完全武装しているから大丈夫。会場に到着したらコートを脱ぎ捨て、ホットパンツにブーツといういでたちで踊りだす。今をときめく監督と女優のカップルはパーティーの主役だ。

クリフは仕事を終えたリックを家に送り届けると、自分のクルマで帰宅する。いい感じにヤレた水色の「フォルクスワーゲン・カルマンギア」だ。サビサビだけど調子はいいようで、コーナーではきれいにドリフトをキメる。長回しで撮っていたから、ブラピが自ら運転していたようだ。彼が帰るのは、ドライブインシアターの裏手にあるトレーラーハウス。リックには十分な給料を払う余裕がない。

シャロンが夫から買い与えられているのは、ピカピカの「ポルシェ911」。黒のセーターに白いミニスカート、白のブーツというシンプルなスタイルで、街の映画館に出掛ける。自分が出演している映画『サイレンサー/破壊部隊』を観るためだ。観客の反応を見てうれしそうにほほ笑む表情が愛らしい。映画の仕事を始めたばかりで無限の可能性を秘めていた彼女は、その後も長く活躍してハリウッドを支えていかなければならなかったはずなのだ。

「キャデラック・クーペ ドゥビル」
1949年に登場したゴージャスなクーペ。フランス語で“街の”という意味を持つde villeが車名の由来。1959年にセダンシリーズと統合された。映画に登場するのは第3世代モデルの1966年型。
「キャデラック・クーペ ドゥビル」
	1949年に登場したゴージャスなクーペ。フランス語で“街の”という意味を持つde villeが車名の由来。1959年にセダンシリーズと統合された。映画に登場するのは第3世代モデルの1966年型。拡大
 
第202回:黄金時代を駆け抜けたクルマとスターたち『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の画像拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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