爆笑の残虐アクション

うれしいことに、リックとクリフは相変わらずのぼんくら生活を送っている。彼らはイタリアに渡って映画に出演するが、状況は大して変わらなかった。マカロニウエスタンの『ネブラスカ・ジム』や『007』のパクリ映画『素早く殺せリンゴ』なんていう二流作品に出ても評価が上がるはずがない。『荒野の用心棒』などに主演して名を上げたクリント・イーストウッドは、例外中の例外なのである。

ぼんくら2人組は時代から取り残されている。ファッションを見ても、最先端を行くポランスキー夫妻とは大違いだ。クリフは肉体美のおかげでそれなりにカッコいいが、リックの服装は悲しくなるほどダサい。彼らはどうでもいいことを話して一日を過ごす。映画全編に無駄話があふれているのが楽しい。一瞬たりとも退屈することはなく、タランティーノの作り出した夢の空間に陶然とする。

“事件”を扱っているのだから、ラストには激しいアクションの見せ場がある。もちろん普通の殺人が描かれるはずはない。目を覆いたくなるような残虐なシーンさえも、タランティーノにかかれば爆笑の場面となる。ダコタ・ファニングの雑な使われ方も見どころだ。

悲惨な題材を扱いながら、映画は多幸感に満ちている。ハリウッドは活気にあふれていて、ラジオからはポップな音楽が流れる。街にはゴキゲンなクルマが走っている。50年後の今も同じような世界が続いていたらどんなに素晴らしいか。タランティーノはヒトラーが居座る世界が許せなかったから『イングロリアス・バスターズ』を作った。チャールズ・マンソンによってハリウッドの夢が壊されてしまうことにガマンがならないのは当然である。かなわなかった理想を、彼は2時間41分の夢としてわれわれに届けてくれた。

(文=鈴木真人)

 
第202回:黄金時代を駆け抜けたクルマとスターたち『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の画像拡大
 
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
2019年8月30日全国ロードショー。
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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