自動車人よスタイリッシュであれ

かくも波乱万丈の人生を送ったアンドレ・シトロエンだが、今日でも評価されているのは、フランス20世紀産業界への功労度や生前最後のプロダクトであった「トラクシオンアヴァン」の革新性、そしてエッフェル塔を使った電飾広告などフランス宣伝史への貢献度などがあまりにも大きかったためであることに疑いの余地はない。

そのことは、彼が世を去ったあとに企業としてのシトロエンを支えたミシュランやプジョーも否定することはできなかったのである。

経営者、特に創業者の「引き際」を含む生きざまは、のちの世までその企業のアイデンティティーとなることが少なくない。

今日テスラを率いるイーロン・マスク氏には、ファンと懐疑論者との双方がいる。しかし、彼の発信するメッセージや、それにまつわるさまざまな出来事は、少なくとも業界において現在進行形で見られる、珍しい人間ドラマといえる。

最後にもうひとつ。生きざまが素晴らしいトップがいなくなると、それに憧れる若者が減っていき、ひいては業界全体が縮小してしまう。だからこそ、今の自動車業界には「スタイリッシュな引き際」が求められるのだ。
    
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、日産自動車、フォード、FCA、シトロエン、テスラ/編集=藤沢 勝)

「テスラ・モデル3」のデリバリー・イベントで。2017年7月。
「テスラ・モデル3」のデリバリー・イベントで。2017年7月。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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