日産スカイラインGT Type P(V6ターボ)(FR/7AT)
民草の声に傾聴せよ 2019.10.04 試乗記 「日産スカイライン」のマイナーチェンジで追加されたV6ツインターボモデルはなかなかの意欲作だ。その出来栄えは概して素晴らしい。しかし、いっぽうでは日産の国内市場軽視が透けて見える部分も少々……。中年カーマニアの筆者にとっては寂しさを覚えつつの試乗となった。手放し運転ができるのはハイブリッドのみ
スカイラインの新しいポイントは大きく4つある。そのうち“エクステリアデザインの変更”と“新コネクテッドサービスの導入”という2つは全モデルに共通する。残る2つは「プロパイロット2.0」と“走行性能の向上”だが、これはハイブリッドとターボというパワートレインごとに、きれいに振り分けられている。
話題のプロパイロット2.0はハイブリッドのみに標準搭載となる。しかし、逆にいうと、今回のスカイライン ハイブリッドではプロパイロット2.0以外に、走りやメカニズムにまつわる変更はとくにない。
これとは対照的に、走行性能にかかわる新機軸はすべてターボに集中する。この3リッターV6ターボ自体が本邦初導入となる新型エンジンであるだけでなく、同じく国内向け日産車では初となる電子制御可変ダンパー「インテリジェントダイナミックサスペンション(IDS)」が用意されるのもターボのみ。いっぽうで、ターボにはプロパイロットの“プ”の字もないどころか、その他のADAS(先進運転支援システム)装備もこれまでと変更なしだそうである。
今回はインテリアにもさしたる変更はない。現行スカイラインは年明け(2020年)にデビュー6年目を迎えるが、当時鳴り物入りで採用されたセンターのタッチパネルは今となってはやけに仰々しく、逆に古さを感じさせつつあるし、位置や角度のせいか指紋も目立ちやすい。そして最上段のナビ画面もサイズ、解像度ともに明らかに旧式感が漂いつつある。
ただ、内装調度の基本的な質感には以前から定評があり、さらに2017年12月のマイナーチェンジでブラッシュアップされたこともあって、仮想敵とするドイツ系Dセグメントセダンに大きく引けを取ることもない。もともとクラスでは大柄なタイプなので、室内も広い。なので、海外で「インフィニティ」を名乗る高級ブランド車らしく、細部だけでもこまめにアップデートしてくれれば、まだまだ古びないのに……とは思う。
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V6エンジンは出色の出来栄え
注目の新エンジンVR30DDTT型は、バンク角やボアピッチは前身にあたるVQ型のそれを踏襲しつつも、すべてが新開発という。
末尾の「DDTT」という文字列から日産ファンが読み解くとおり、直噴のツインターボである。シリンダーの「ミラーボアコーティング」やバルブリフターの「水素フリーDLCコーティング」、0W-20という低粘度指定オイルなど、いかにも現代的なフリクション低減の工夫も多い。しかし、同時に「400R」では400PS超の大台も想定するほど、素直な高出力エンジンでもある。
今回はいわば標準スペックとなる304PS版だったが、それでも今どきめずらしい“回しがい”のあるエンジンだ。もちろん下から図太いトルクを供出する柔軟性をもちつつ、トルク特性は最近よくある“どフラット型”ではない。4000rpmくらいから明確に活気づいて、さらに5000rpm、6000rpm……とレスポンスとサウンドが少しずつ変化しながら吹け上がっていく。さすがに6000rpm付近でトルクはアタマ打ちになるようだが、7000rpm強のリミットまでスパッときれいに回りきる。
さらにいうと、リミット付近でのヒステリックでカン高い排気音は、同じVRを名乗る「GT-R」の3.8リッターを思い出させもする。そのVR38DETTと今回のV6ターボとではさすがに設計も別物だが、バンク角やボアピッチがVQ由来であることや、福島いわき工場で組み立てられる点は一致する。
この新しいスカイラインターボでもうひとつ印象的なのは、いわゆるターボラグの小ささだ。それには小径タービンを使えるツインターボレイアウトのほか、エキマニ一体ヘッド(=吸気経路が短い)や水冷インタークーラー(=吸気系容量が縮小できる)といった今回導入された新技術の効果も大きいという。
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FR車の魅力が詰まっている
これまでの2リッターターボではオプションだったバイワイヤの「ダイレクトアダプティブステアリング(DAS)」が標準装備となったのも今回のスカイラインのニュースで、試乗車も当然ながらDAS付きだった。しかし、可変ダンパーのIDSは上級グレード専用装備(400Rに標準、「GT Type SP」にオプション)であり、中間グレード「GT Type P」(=テスト車)には備わらない。
その走りには素直に感心する。低速でランフラット特有のコツコツはあるものの、サスペンションそのものの作動は滑らかで、高速や山坂道でカツが入ると、喜々として路面に吸いつく。最新鋭のライバルと比較しても、ロールやピッチングなどの上屋の動きがことさら小さいわけではないが、すべてが人間の感覚にピタリとあった調律なのが快感だ。
また、最大トルクで400N・mという怪力系エンジンにもかかわらず、ごく普通のFRレイアウトにしてトラクション性能やリアの安定性になんら不足を感じさせないのも素晴らしい。少なくともドライであれば、いかなるコーナーでも思い切って踏める。
このクルマにはDAS以外に特筆すべきシャシー関連のハイテクは備わらない。こういう好印象の背景には、今回はとくに手が入っていないという車体の剛性感がいまだ印象的なほど高いことや、過給ラグをまるで感じさせないV6ターボのリニアなレスポンスもかなり効いている。いわゆる“基本フィジカル”の能力が高いのだ。
この最新のスカイラインGTではコーナリングが決まったときの、お尻をわずかに沈めながら蹴り出す最後の脱出姿勢にも「この瞬間がFRだね」と思わずヒザをたたきたくなる。
日産にとっての宝物
いまだに世界でも希少なステアバイワイヤのDASも年次改良の積み重ねによって、今では5年前のような違和感はほぼ解消している。連続可変レシオ制御によって、人間の操作量を減らすのがDASの大きな目的のひとつだが、トータルでは「交差点もワインディングも手首ひとつでグリングリン……」みたいな極端に敏感な設定にはなっていない。
実際の制御はかなり複雑だとしても、体感的には中立付近の切りはじめで鋭く速やかにヨーが立ち上がりながら、その先が意外にマイルドな反応に調律されているのが特徴である。だから、他社の可変レシオのように徹頭徹尾ステアリングに頼るより、いったんヨーが立ち上がったら、運転の主体をスロットル操作による荷重移動に移すのが、このクルマで気持ちよく曲がるコツでもある。そのあたりの味わいは、名車だった(と私は思っている)先代スカイライン(V36)を彷彿とさせて、個人的にはツボだ。
古典テイストを残しつつも、路面からのキックバックが皆無で、その感触はとことん滑らか、高速では前輪がレールにハマったかのような安定感がある。どんな場合でも介入遅れのようなクセがなく、それでいて“旋回途中の切り増し”といった特定のシーンでのみ再びシャープに反応する……といったところに、フロントタイヤとステアリングを機械的に切り離せるDASならではの利点がうかがえる。
DAS最大の効能はおそらく、プロパイロット2.0、あるいは今後の3.0や4.0……のような自動運転技術との親和性だろう。しかし、DASというハイテクのメリットを、こういう昔ながらのファン・トゥ・ドライブに昇華させている点もまた、なかなか見事である。
最近はネガティブに取り上げられることも多い日産だが、現場の開発力、とくに実験部隊の能力は日産の宝。そして、この種のほどほどスポーツテイストのFRの経験も深い。このクルマに乗ると、それがよく分かる。
車線維持支援機能はおまけ程度
冒頭にも書いたように、ハイブリッドのプロパイロット2.0とは対照的に、このクルマのADAS関連にはまったく変更がない。ただ、2014年2月のデビュー時点では最先端だったことも事実で、とくに前後方向の運転支援はいまだに独自性が光る。
前方を監視するレーダーは常に2台前の前走車までモニターしており、ごく普通に車間距離が詰まったようなケースでは、なんの警告もないままに、リアクティブ機構が備わったアクセルペダルを強制的に押し戻しながらスムーズにブレーキをかける。もちろん、アダプティブクルーズコントロール(ACC)を作動させなければ加速側の制御をしてくれないが、前にクルマがいる日常の市街地走行では、信号で停止し続けるとき以外はほとんどブレーキ操作不要?……と思ってしまうほど、自然で精密にブレーキをかけてくれる。
それでいて、緊急自動ブレーキがいまだに歩行者を検知しなかったり、ACCは全車速対応なのに、電動パーキングブレーキ(EPB)が備わらないために渋滞追従はできなかったり……と、2014年という時代の過渡期感が残念ながら否めない。
また、このように前後方向=加減速制御ではけっこう高度なのに、左右方向の支援システムが意外なほど簡素な点も、いかにも時代を感じさせる。このクルマにも当時最先端だった「アクティブレーンコントロール」がついているものの、あくまでドライバーの積極的なステアリング操作を前提とした補助システムでしかない。クルマまかせだと、日本の高速でもごくごく緩いカーブ(体感的には600R以上)しか車線は維持できない。クルマが主体的に車線をキープして走る最新のレーンキープアシスト(LKA)とは別物である。
“お家事情”丸出しの商品企画
繰り返しになるが、新スカイラインのハイブリッドには、現時点で世界最先端のADAS(=プロパイロット2.0)が備わる。それは歩行者や二輪車も検知して、ハンズオフで車線のど真ん中を走り、道路標識認識機能で制限速度も自分で守って、EPBによって渋滞でのストップ&ゴーも自在だ。いっぽう、このターボのADAS機能は、このクラスとしては“貧弱”といわざるをえない。
事情は理解できないでもない。膨大なセンサーを必要とするプロパイロット2.0はまだまだ高価だし、緻密な技術なので、パワートレインが変われば個別の適合作業だけでも時間がかかる。だから、まずは1車種に集中せざるをえなかった……ということだろう。
それでも、ターボにもせめてハイブリッドと同じEPB、そしてLKA、歩行者検知機能、道路標識認識機能くらいは備えてほしい。最新のスカイラインのADASが軽自動車にも劣るとは、どうにも締まらないではないか。そうするにはカメラやレーダーもすべて変える必要があり、コストがかかるのは理解できるが、そういう裏事情をお客に如実に分からせてしまうのは、このクラスには似つかわしくない。
多くの好事家が嘆くように、最近の日産の国内戦略は割り切りがすさまじい。せっかくデキはいいのに改良内容がなんかチグハグな今回のスカイラインにしても、放置状態の「フーガ」や「フェアレディZ」よりはマシだが、そもそも日産の国内商品企画はそうした“お家事情”が丸出しのケースが多すぎる。
それでいて、e-POWER効果で「ノート」や「セレナ」の販売が好調で、国内販売の半分を占めようかという軽自動車の自社開発にもついに乗り出した。日産経営陣は「国内市場はこれでよし」との判断なのだろうか。
ご承知のように、日産のスカイラインは海外では「インフィニティQ50」として売られており、「Vモーション」は日産ブランドの象徴である。つまり、Vモーショングリルをもつ新スカイラインは日本専用デザインなのだ。まあ、グリルとテールランプ、トランクガーニッシュとバッジのちがいだけだが、これまでがインフィニティバッジのまま売られていたことを考えると、ファンは素直に嬉しい。こういう些細なことでも喜ぶ日本のファンの気持ちを、日産経営陣はもっと汲み取ってほしい……と中年マニアのひとりとして思う。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
日産スカイラインGT Type P(V6ターボ)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4810×1820×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1740kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:304PS(224kW)/6400rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1600-5200rpm
タイヤ:(前)225/50RF18 95W/(後)225/50RF18 95W(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:10.0km/リッター(WLTCモード)
価格:455万4360円/テスト車=515万8848円
オプション装備:ボディーカラー<オーロラフレアブルーパール(2P)スクラッチシールド>(4万3200円)/BOSEパフォーマンスシリーズサラウンドシステム(16スピーカー、サラウンドステージテクノロジー、オーディオパイロット、センターポイント2バーチャル・サラウンド機能、アドバンスト・ステージング・テクノロジー)+アンビエントライトシステム(21万9240円)/フィニッシャー<インストゥルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム>本木目(7万5600円)/リア可倒式シート<6:4分割>(4万3200円)/電動ガラスサンルーフ<ワンタッチスライド・チルトアップ、UVカット機能付きプライバシーガラス、挟み込み防止機能付き>(11万8800円) ※以下、販売店装着オプション ドライブレコーダー(3万8190円)/プレミアムフロアカーペット<消臭機能付き>(5万6160円)/ウィンドウ撥水(はっすい)12カ月<ウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万0098円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2364km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:607.1km
使用燃料:79.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。