ボルボV40クロスカントリーT5 AWDサマム(4WD/8AT)
足りないものは何もない 2019.10.09 試乗記 長年にわたってボルボの販売面での主役を務めてきた「ボルボV40/V40クロスカントリー(CC)」が、2019年内に生産終了を迎える。最後の試乗の出発地は栃木・宇都宮。東京を目指す道のりで、V40CCとじっくり向き合ってみた。懐かしさの漂う操作系
2017年の「XC60」、2018年の「XC40」と、ボルボは2年連続で日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。絶好調だが、今年3連覇を果たすのは無理である。期間内に新型車の導入がなかったのだ。ボルボはラインナップ再編成の途上にあり、「60シリーズ」と「90シリーズ」をスケーラブルプロダクトアーキテクチャー(SPA)と呼ばれるプラットフォームを使って新世代に更新した。
「40シリーズ」はひと回り小さいコンパクトモジュラーアーキテクチャー(CMA)というプラットフォームを用いる。すでに新世代モデルのXC40が好評を博しているが、「V40」は2012年のジュネーブショーで、V40CCは2013年のパリモーターショーでデビューしたモデルが販売され続けている。V40/V40CCもCMAベースで新開発するのかと思われたが、モデルチェンジは行われないことになった。2019年モデルの在庫がなくなれば、もう手に入れることはできない。
2018年12月から、ボルボは「タックエディション」「クラシックエディション」と名付けられたV40/V40CCの特別仕様車を販売している。過去にもさまざまなクルマのモデルライフの最後に与えられてきた名前だ。さらに、2019年4月にはV40に、その名も「ファイナルエディション」を設定した。惜別の思いが込められているということだろう。新世代モデルが高く評価される中で、“末期モデル”に試乗することになったわけだ。
乗り込むとすぐに“古さ”を実感する。エンジンをかけてDレンジを選び、パーキングブレーキを解除しようとしたがスイッチが見つからない。しばらく探してようやくセンターコンソールのサイドブレーキを見つけた。太くて立派な作りなのに、電子式パーキングブレーキに慣れてしまっていてレバーに気づかなかったのだ。エンジンスターターボタンの下に、キーを収納するスロットが付いているのも懐かしい。
スカンジナビアンデザインの象徴
フローティングセンタースタックも久しぶりだ。ボルボの誇るスカンジナビアンデザインの象徴だった意匠である。実用性には欠けていたものの、軽やかでクールなスタイルは今見ても魅力的だ。世の中から消えてしまうのはちょっと惜しい気がする。
その上に位置するモニターは、今の基準からするとずいぶん小さい。しかも、ナビ画面のコントロールには特殊な方法を用いる。数字のボタンを押して画面を上下左右に動かすのだ。合理的なのかもしれないが、あまり使いやすいとは言えない。インターフェイスは着実に進歩し続けていて、ちょっと前のものでも時代遅れになる。音声コントロールも用意されているが、あまり役には立たなかった。
久しぶりに見たV40CCは、ボディーのコンパクトさが新鮮である。XC40は思いがけなく大きく育ってしまった印象で、同じクラスとは思えない。ただ、数字を確認すると見た目ほどの差はないのだ。
XC40の全長×全幅×全高が4425×1875×1660mmなのに対し、V40CCは4370×1800×1470mmである。全長で55mm、全幅で75mmしか違わない。やはり車高が高いことが威圧感の源泉で、SUVというボディータイプが立派に見えるということなのだろう。
安全装備は今なお最前線
「T5 AWDサマム」は最上級グレードだ。2014年から採用が始まった新パワートレイン「Drive-E」の2リッター直列4気筒直噴ガソリンターボエンジンを使っていて、最高出力245PS、最大トルク350N・mという強力なチューンに8段ATが組み合わされる。
試乗コースは宇都宮から日光を経て東京に戻ってくるというもの。霧降高原のワインディングロードを存分に楽しむことができた。タイトなコーナーが連続する道では、コンパクトなボディーが有利に働く。走りは軽快で、アクセルペダルに対するレスポンスのよさが心地いい。XC40の豪快で力強いフィールとは好対照である。
メーターの照明が真っ赤になっていたのでスポーツモードになっているのかと思ったが、そうではなかった。「エレガンス」「エコ」「パフォーマンス」という3つのテーマを切り替えられることを忘れていたのである。ドライブモードを変えるには、シフトセレクターを助手席側に倒すというオーソドックスな方法をとる。効果はてきめんだ。ボディーが軽くなったように出足が鋭くなり、パドルを使えばスポーティーさが増幅される。
旧世代モデルといえども、安全装備に怠りはない。2015年から運転支援システムの「IntelliSafe」が標準化されているのだ。ミリ波レーダーとカメラ、赤外線レーザーなどを使ってまわりの状況をセンシングする。歩行者や自転車の検知機能も付いている高度なシステムだ。安全の分野では、ボルボの先進性は揺るぎない。
残された時間は長くない
アダプティブクルーズコントロールも装備されている。全車速対応だから渋滞でも使える。前車に追従してアグレッシブに加速するのはボルボのシステムの美点だ。対照的に、レーン・キーピング・エイド(LKA)の作動は穏やかである。
荷室はものすごく広いわけではないが、フロアが二重底になっていて使い勝手がいい。パネルを立てれば、用途に合わせてアレンジができる。長物を載せたい時には、助手席を前に倒せば長大な空間が出現する。操作は少々面倒だが、3人乗車でスキーに出掛ける場合などに使える機能だ。新世代モデルでは採用されていないらしい。
あらためて外観を眺めてみても、特に古さを感じることはない。新世代のクールなデザインテーマもいいが、V40はボルボがオシャレ路線に目覚め始めた時期を代表するモデルなのだ。「プレミアム・スポーツコンパクト」と称していたスタイルは色あせていないし、都会的な洗練を保っている。ヘッドライトには「トールハンマー」と呼ばれるT字型のLEDが採用されているので、ここだけは最新のモデルと同じである。
小回りが利かないことなど気になる点もあったが、基本的には足りないものは何もない。デビュー当時から高いポテンシャルを持っていた上に、着実に新しい技術が盛り込まれてきた。V40は今なお十分に現役で通用するクルマである。もう、フローティングセンタースタックのあるモデルは現れない。この形や内装が好きでコンパクトなボルボが欲しいなら、手に入れる最後のチャンスだ。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボV40クロスカントリーT5 AWDサマム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4370×1800×1470mm
ホイールベース:2645mm
車重:1590kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245PS(180kW)/5500rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 95W/(後)225/45R18 95W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:467万5000円/テスト車=486万4444円
オプション装備:メタリックペイント<デニムブルーメタリック>(8万4537円)/パノラマガラスルーフ(10万4907円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1177km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:218.8km
使用燃料:19.9リッター
参考燃費:11.0km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。