ボロは着てても……

ところで筆者が住むイタリアのシエナと隣町フィレンツェを結ぶ非電化ローカル線には、「ミヌエット」という愛称のアルストム製車両【写真17】が2000年代に導入されている。

室内についても、クロスシートありちょっぴりラウンジ風シートありとしゃれている。

しかし、以後は車両の更新がない。そればかりか、深夜の時間帯になると、乗客が少ないことから【写真19】の古い車両が、たった1両でやってくる。

「ALn668型」というこの気動車は、今はなきフィアットの鉄道車両部門(フィアット・フェロヴィアーリア)製である。種々のバリエーションが存在するが、その基本設計は1950年代までさかのぼる。

夏にこの車両に当たったときには、かなり劣化した車内に加え、冷房故障で窓が全開。ディーゼルの排気がもろに入ってきて、まいったものだった。

そのため、2019年9月に、再びALn668がホームにたたずんでいたときも身構えた。

ところがどうだ。決死の思いで乗り込んでみると、なんと室内は改造され、ミヌエット風シートが備わっているではないか。冷房も今や過剰なほど効いて、終点に至るころには、自分が「ニチレイのサラダえび」になるのではないかと思った。

揺られながら思わず「ボロは着てても、心は……♪」という演歌を口ずさんでしまう。いや、古い建屋の中にモダンなファーニチャーとは、まさにイタリアの中世都市における住まいのようである。

【写真17】シエナ駅にたたずむ「ミヌエット」。
【写真17】シエナ駅にたたずむ「ミヌエット」。拡大
【写真18】「ミヌエット」の室内。低床にすることにより出っ張った台車ハウス上に、ラウンジ風シートを設けている。
【写真18】「ミヌエット」の室内。低床にすることにより出っ張った台車ハウス上に、ラウンジ風シートを設けている。拡大
【写真19】エンポリ駅にたたずむ「ALn668」。1両編成である。
【写真19】エンポリ駅にたたずむ「ALn668」。1両編成である。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など数々の著書・訳書あり。

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